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物流ニュース
大津波から奇跡の生還、ドライバーがやけど負いながら自宅へ
2011年4月26日
「心理カウンセリングが必要かもしれない」と運送会社の社長夫人。東日本大震災による大津波で冷凍トラックごと飲み込まれた同社のドライバー(41歳)が、震災発生から4日ぶりとなる3月15日、顔全体にやけどを負いながらも兵庫県の自宅へたどり着いた。重なる偶然がドライバーを危機に遭遇させ、その一方で連続した奇跡で一命が救われたが、「いまも本人は地震速報を知らせる電子音で体が硬直している」(同)という。帰還したドライバーの無事を喜びつつも、想像を絶する被災者数に心中は複雑。さらに、新車から2年に満たない25t冷凍トラックは車両保険が利かないうえ、リース契約ゆえの厳しい条件も見えてくるなど、「前へ進もう」とする運送会社の新たな災難となっている。
「ほとんどが東京から九州の範囲。本当にたまたまだった」と嵯峨山幸広社長(嵯峨山通商、兵庫県朝来市)。普段なら東京の取引先で荷物を引き取って西方向へ戻るトラックが、その日は仙台・若林区をめざした。到着後、帰りの荷物を積むために向かったのが女川町。ドライバーが携帯電話で作業完了と現地出発を会社へ連絡したのが11日の午後2時42分で、その4分後に地震が起きた。
「地震速報を見てドライバーに連絡を入れたが、その時点で道は隆起し、あちこちで家屋が倒壊しているとの報告を受けた」(同)という。「それから1時間ほどは携帯電話もつながっていた」らしいが、その後は音信不通の状態となった。
当時の様子は兵庫に戻った翌日の16日、ドライバーから聞き取りするなかでわかってきた。「(避難車両による)渋滞を回避させるため、予定とは違うルートをナビが案内した」ため、国道398号から山側へ入るつもりだった分岐点を石巻漁港へとハンドルを切り、まもなくトラックごと大津波に飲み込まれた。
数棟が並ぶ平屋建ての民家に衝突して車両が止まったのも奇跡だった。トラックの屋根に上がったドライバーは冷凍機のエバーにしがみついたが、いくらか津波が引いた際に「車内に忘れた免許証を取りに戻ったところ、民家のプロパンのボンベが車内に数本流れ込んでガスが充満しており、運転席に入ったタイミングで爆発。そんな状況で免許証なんか放っておけばよかったのに…」と夫人。顔全体にやけどを負った。
車両自体が爆発する危険を感じたドライバーは民家の屋根へ飛び移り、津波が収束するまで待機。この間の様子をドライバーは「サイドミラーで大津波を確認したが、あっという間にトラックごと流された。周りの乗用車は一瞬で見えなくなり、その後も次々と濁流に車が飲まれていく様子が見えた」と説明している。
2階建ての民家を見つけて避難したところへ1台の乗用車が漂着し、そのドライバーと一緒に朝を待った。夜が明けると徒歩、ヒッチハイクで仙台駅までたどり着いたようで、会社へ連絡が入ったのは地震から2日後の13日午後2時12分。その後、取引先関係者の手配などで奇跡の生還を果たした。
水没していくトラックから脱出できるか否かが生死を分けたともいえるが、かねて同社では安全対策として「車外の音を耳で聞く」ために窓ガラスを数cm開けておくように指導しており、それが幸いした。
やけどを負いながらもドライバーが戻ってきたことで、取引先企業も含めた物流の早期回復に意識を向けたが、「車両保険が出ないうえ、リース契約は(全損などの場合)一括で残額を返済しないといけない」(夫人)という問題に直面。同社は全車に車両保険を掛けているが、加入する共済組合は「特約を設けている損保もあるようだが、当共済では地震に起因するものは一切支払われない」と話す。
被災・炎上した2層式の大型冷凍トラックは平成21年4月に新車を下ろしたもので、リース料の支払いも3年余り残っていた。リース契約が残る車両が全損した場合は「残額の一括返済」が原則になるが、車両保険が出ない同社にとってはダブルパンチ。契約リース会社に話を聞くと「原則は一括返済。ただ、個別の事情を聞きながら柔軟に対応する必要もあるだろう。震災による被害の全容が把握できてからの話ではないか」(業務統括部)と説明。
また、今回の大津波による「災害」で、なぜか運輸当局が自動車事故報告書の提出を同社に求めている。「事業を始めて18年間で初めての事故報告書」(夫人)というが、すでに同社は提出。「火災が起きたことで重大事故の扱いになり、結果として事故報告書を出してもらうことになる」(兵庫陸運部)と担当官。釈然としない回答が実損害に加え、精神的にも重い負担となって同社にのしかかっている。この記事へのコメント
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顔全体にやけどを負っても家に帰るのがすごいと思いました。