-
物流ニュース
労災を防ごう 順調に減少も、ここ数年は横ばい傾向
2017年9月25日
昭和47年に2万6068人だった死傷者数が平成28年には1万3977人になるなど、順調に減少している労働災害件数だが、ここ数年は横ばい傾向になっている。交通事故や荷役事故による死者数は減少しているものの、死傷者数は荷役によるものが期待ほど減少しておらず、横ばいの原因ともなっている。労働災害が多いとドライバーも安心して働けず、定着率も低くなる。今回は労働災害について関係者に話を聞いた。
運送業界の労働災害の現状について、陸上貨物運送事業労働災害防止協会(陸災防)の技術課では、「死傷災害の推移を見ると横ばいになっている。死者数は減少しているが、過去最低だった昨年に比べて今年は増加している」という。「交通事故による死者数は変わっていないが、墜落・転落による死者は昨年の6月末現在で1人だったものが今年は8人。死傷者数は同1670人だったものが1716人と、墜落・転落による災害がかなり増加している」と指摘する。
横ばいを続けているとはいえ、死者数と死傷者数が減少した背景には「運送事業者各社の教育の成果が出てきたといえる。法的な行政処分の強化なども抑止力になっているようだ」という。陸災防では、平成25年から29年までの計画として「死亡災害を105人以下」「死傷者数を1万2400人以下」にする目標を掲げていた。「死亡者数については、昨年99人で達成したが、今年はこのままでは厳しいかもしれない。死傷者数もかなり減少させないと達成できないだろう」という。
「死傷者数の7割が墜落・転落で、これを減少させなくてはいけない。現在、物流業界では人員不足で従業員が定着せず、慣れない作業員が教育を受けないまま作業しているケースも多いと聞く」と指摘。「また、ロールボックスパレットの事故が多く報告されており、全国で研修会を開いている。便利ゆえに使い方によっては危険で、事故につながりかねない。きちんとした教育を作業員に受けさせないとダメで、それにはトップがきちんとした考えを持たないと浸透しない」とも。
労災を防止するには、作業員へのきちんとした教育が必要で、教育をおろそかにする事業者への注意が必要だが、現場の声がなかなか行政に届かないという現実もある。行政ではさまざまな相談窓口を設置しているが、厚労省の「労災保険相談ダイヤル」では「相談件数は昨年度で2万7032件あったが、業種別で出していないので、件数が増加していることはわかるが、どの業種が増えているかまではわからない」(総務課)という。「相談では会社名を聞かないことになっているので、統計が取れない」とも説明する。
東京都労働相談情報センターでは、「年間9万件以上の相談があり、労災については昨年度で1812件。運輸業の相談はうち67件だったが、年によって波があるので評価が難しい」としている。
現状では、現場からの相談で労災を防止することは難しい。行政とすれば、「問題が発生してから対応する」ことで減少させたい考えだが、労災事故防止には民間の保険会社やコンサル会社なども積極的に事業を展開している。
■専門家に聞く「毎日同じ作業で油断が生まれる」
「労災事故や交通事故が発生すると、だれも幸せになれません。事故を防ぐには、どうすればいいかを常に考えています」と話すのは、東京海上日動火災保険(東京都千代田区)の早川貴子副主任。コマーシャル損害部の国際物流第二グループに所属している、貨物保険の専門家だ。
「契約されている物流事業者様が事故を起こさないよう、サービスの一環としていろいろとご提案させていただいている。決まったものではなく、各社に合わせてカスタマイズさせていただいたものをご提案している」という。早川さんたちは「事故対応の専門家」で、「常に事故と向き合っており、私たちから見た『どの部分が危ないのか』をアドバイスさせていただいている」と説明する。
「フォークリフトの場合、ツメが人に刺さった事例や作業員の足をひいてしまった事例などさまざまな事故があります」という早川さん。「毎日、同じ場所で作業していると、今日も大丈夫だろうという油断が生まれます。しかし、外部の人間から見れば作業場所が暗すぎるなど、事故を誘発させる現場に気がついていないという事例はいくらでもあります」と指摘する。
「労働災害といってもさまざまなケースがあり、腰痛防止のためのロボットを提案したり、熱中症を防止するためにウォーターサーバーの設置や、危険が一目でわかる室温計の設置など、提案することは多岐に渡ります」と早川さん。「現場に行くと、事故を起こさない会社と起こす会社は一目でわかります。それは、リフトにライトをつけることで解決するものや、白熱灯をLEDライトに変えることで解決するものなど、単純なことがほとんどですが、するとしないとでは大きな差となります」
「きちんとしている会社は残念ながら少数派。荷主からの指示がシビアで『清潔に、安全にしないと仕事を切られる』といった会社ではきちんとされていますが、それも物流センターの一つではきちんとしているものの、会社全体でやっているという事業者様はかなり少ない」と報告。「事故を防ぐには、なぜ事故が発生したかをきちんと、徹底的に掘り下げて原因を解明していかなくてはできません」という。
また、「最近の物流業界では人の入れ替わりが激しく、慣れない新人の方が作業をして、事故を発生させるというケースも目立っています。マニュアルを教えるだけではなく、そのリスクも知ってもらわなければいけません」という。「しかも、そのマニュアルがわかりやすいのかどうかも問題です。毎日、朝礼をしていても、参加者の頭に入っていなければ何の意味もなくなります」
「運ばれている荷物が違うと、それだけでリスクが変わってきます。当社では、必ず現場を見てからご提案しています。『うちは大丈夫』と思われている現場でも、事故のリスクに気づかれていないケースが沢山あります」と早川さん。「新人ドライバーのレベルの底上げと、ベテランを我流から標準化させる取り組みを現在しています。また、現場の作業員と管理者で事故リスクの認識が異なっている場合もあり、事故をなくすには、こういった認識の違いをなくすことも必要です」という。
同社では現在、物流事業者を対象とした「労災リスクサーベイ」や「リフトなどの動線分析によるリスクコンサルティングサービス」「入出庫作業&運転リスク診断」などを実施し、運送事業者の事故防止に全力で貢献している。
◎関連リンク→東京海上日動火災保険株式会社この記事へのコメント
関連記事
-
-
-
-
「物流ニュース」の 月別記事一覧
-
「物流ニュース」の新着記事
-
物流メルマガ