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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(307)人材育成について(13)A社の事例(2)
2020年10月5日
・長所を伸ばす
拒人症とは私の造語であるが、人との暖かいふれあいやコミュニケーションを拒否して、いじけて自分のカラに閉じこもる症状である。拒食症とよく似ている。拒食症は食べることを拒絶する。ちょっとした一言「君ちょっと太っているね」などをきっかけとして、一切食べなくなり、やせ細っていく。そして過食になると、今度は食べ過ぎて吐く。この病気の原因は、母と子の関係にある。母に対して幼児期十分な愛情をかけられなかった子が、拒食(過食)という形の情緒障害を引き起こす。
私はA子さんと面談した。実に口の重い、ポツリ、ポツリの面談であった。それでわかったことだが、家庭でのA子は、母にバカにされ、姉、兄にもボロクソに言われていた。「あんたはダメな人間だ」と、言われ続けて育ってきた。
そこで私は、A子さんに将来の夢についてたずねた。じっくり考えて返事するとのことで、1週間して2回目の面談をもった。「私の夢は英語の通訳か、翻訳する人になることです。家でそのことを言ったら〝お前にそんなことできるわけない。もしできたら地球がひっくり返るよ〟と母に言われました。拒人症の真因について個人面談で聞いていましたので、母とも関係を是正して見返してやるのが拒人症の治癒につながると思って、どうしてもやりたいと思います。通信教育で勉強します」。
それから徐々に、A子は変わっていった。笑顔を見せるようになり、職場の空気にとけ込みはじめた。通信教育をはじめて6か月も経つと、誰の目にもA子の変化がわかった。うつむいて歩くクセや、じっと下を見ているいじけた姿勢がなくなり、普通になってきた。この変化は、自己の症状を自覚したこと、「私は拒人症だ」との認識が原因をさとらせたことにある。
原因とは、A子さんの家庭での位置である。母や姉、兄に「おまえはアホだ」と言われ続けた歴史が、拒人症にさせたのだ。そのことに気付いて、自己の夢を描き、その実現に向けてアクションを起こしたのがきっかけになった。英語が好きだという、長所を伸ばそうとして努力したからだ。
いい芽を伸ばすのは人材開発の基本だ。ひとつの成功体験が自信につながり、それにつれて、全体が向上するのだ。人間の無限の可能性を引き出し成功へ導く為に、ポール・J・マイヤーの成功への5原則が頭に浮かぶ。(1)目標を鮮明にする(2)計画を立てる (3)欲望を燃やす (4)自信を持つ (5)何としても成し遂げる
A子さんは英語の通訳をしたいとの目標をもち、通信教育受講の計画を立て、通訳している自分の姿をイメージすることで、暗さというか、対人関係の自信喪失状態から脱け出したのだ。美点というか、長所に着目していくのは、人材育成の基本である。
つづく
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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