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    「手近な部分」の見直しを 行き過ぎた規制緩和

    2012年5月30日

     
     
     

     「いまは異常に早い段階でトラックに営業ナンバーが付く。あのころから実運送がヘンな方向に向かい始めた」と、長年にわたってトラック事業の許認可申請に携わってきた関係者。
     「あのころ」とは、免許制から許可制へとトラック運送事業が様変わりした平成2年。参入規制の緩みから過当競争が続くトラック業界では近年、行き過ぎた規制緩和の検証を求める声が大きくなっているが、行政との手続き業務にタッチする立場から、同関係者は「台数規制の引き上げとか認可運賃の復活といった高いレベルではなく、もっと手近な部分の見直しを求めてもいいのではないか」と、関越道バス事故で運送事業の経営実態に社会の関心が高まっているいまが「絶好のタイミング」と指摘する。


     新規免許を取得するのが極めて難しかった時代から現在まで、トラック運送の起業申請に関わってきた同氏。「参入のハードルを下げて競争心をあおることは事業発展に寄与する部分もあるが、最低保有台数の引き下げや運賃を届け出制に移行するというメーンの規制緩和の陰で、簡素化された手続きが、意外にトラック業界に大きなダメージを与える」と感じている。
     そう話しながら、任意保険の加入を確認する手続きの変更や、有蓋車庫(雨天点検場)の確保義務などを例に挙げ、「本来は外すべき規制ではなかったと思う」と漏らす。「いずれも欠かせない重要な規制であり、国交省の立場からいえば社会保険の加入を求めるより優先すべき問題だと感じていた」という。
     運輸当局の窓口担当官によれば、いずれも「事業者負担を軽減するために省略、または手続きが変更された」と説明。同5年12月に義務化が廃止された有蓋車庫は本来、雨天でも車両点検が可能なスペースとして使われていたが、「都市部を中心に(調整区域の問題もあって)借用地の確保が難しくなったという事情を背景に、事業者の負担を軽くするのが狙いだった」。
     また、任意保険については現在も締結の義務は残っているものの、同15年2月からは契約書を添付する必要はなくなった。現在は、運輸開始届を提出する際に「いくらの賠償額の対人保険に加入している」かを自己申告で書類に記入するだけ。これも「事業者負担の軽減化が理由」としている。
     一方、長年にわたってトラックの許認可申請をサポートしてきた別の事情通は、「とにかく免許時代と比べて、あまりにも早い段階で車両登録が可能になることが問題。事後チェックを強化するといっても、いったん生まれた事業者をそう簡単に殺せるわけがない」。そう話したうえで、事業免許の時代と現在の手続きの流れを大まかに説明する。
     「(免許を手に入れてから)まず運賃料金の認可や、運送約款。次いで運行管理者・整備管理者を届け出て、さらに施設の写真や帳票類(任意保険の証書ほか)、適性診断の証明書などを陸運支局(現運輸支局)へ送る。その後、支局の依頼でト協の関係者が現地確認に赴き、その報告を受けてようやく車両登録が可能になった」というのが、同関係者が見てきた免許の時代。それが平成2年からは「新規許可を取得して、運行管理者と整備管理者を届け出るだけで車両が登録できる」と、事業者数が急増した背景に触れる。
     その後、前述した任意保険(対人)の契約や社保の加入状況などを記入した運輸開始届書を提出することになるが、関係者によれば「任意保険は対人賠償額を自己申告するのに対し、社保や労働保険関係は写しの添付が求められており、何か釈然としない」と吐露。
     関越道バス事故ではドライバーの労働時間の問題だけでなく、名義貸しとも下請け関係ともいえないいびつな事業実態が見え隠れしており、これはトラック運送も例外ではない。「いまが絶好のタイミング」と話す関係者は、「なぜ、そうした労働実態になるのかを社会に訴えると同時に、安全確保が最優先される事業が闇雲な規制緩和で危険な状態にあることを業界側から発信すべきだ」と主張している。

     
     
     
     

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