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ブログ・高橋 聡
第223回:令和時代の運送業経営 労務トラブル実例編(16)
2022年5月31日
【労務トラブル実事例編】⑯
「コロナ禍で頑張る運送業経営者を応援します!」というシリーズで新型コロナウイルス影響の下で「令和」時代の運送業経営者が進むべき方向性、知っておくべき人事労務関連の知識・情報をお伝えしています。
今回も前号に続き運送会社で実際に発生した「労務トラブル実事例」とその対応策について説明してまいります。
1.労務トラブル実事例
⑴トラブル内容
千葉県所在の運送会社A社(社員数50人)は主に食品関係の配送を行う運送会社であった。同社では社員の視点で「分かりやすい給与制度」を導入する事がトラブルを防ぐことにつながると考え、「日給制」とし、日給を業務やトラックのサイズ毎に1・1万円~1・4万円に設定し、出勤日数を掛けて給与額を計算していた。食品関係の配送業務の場合、深夜運行や時間外、土曜日の運行も多くあった。社員より、「残業代、深夜割増はどうなっているのか?」という質問を何度となく受けていたが「日給に含まれている」という説明を行って済ませていた。また、「運行回数による差がない給与制度は不公平じゃないか」という意見を言われることも度々あった。社長としては荷主より収受できる運賃はコース毎に固定されており、深夜運行割増や時間割増が付くわけではないため、ドライバーにも追加で支払うことはしにくい、というのが本音であった。
顧問社労士に確認したが、社保や助成金手続きメインとしている社労士で給与に関する具体的な提案はない状態が続いていた。
ある日、以前、労基署の監督官が「調査」ということで会社にやってきた。社長が「どうして当社に来たのでしょうか?」と聞いても労基署の職員は明確な回答をせず、給与台帳や勤怠データを確認していった。そこで、労基署よりまだ調査結果の連絡はなかったが、数年以内に専務(息子)に経営のバトンタッチを行う予定であり、社内を整備したいと考えていた社長はWebセミナーに参加しコンサルタントに相談してみた。その結果、現状の「日給制」では「未払い残業代請求を受けるリスクが1人当たり月額20万円程度、2年分で480万円になる」「公平な分配が出来ていないのでは」という報告を受けた。そして、新たに提案された給与制度は、「基本給(日給日給制)+定額残業代+出来高歩合給制」という方式で、「変更には社員の皆様より変更の同意を取り付ける必要がある」ということであった。丁度、コンサルタントより分析の報告を受けた頃、労基署より労基法違反に関する「是正勧告」および「支払命令」が出され、背中を押された形で変更を決断し、定年延長等を併せて手続きを進めている。
⑵事例のポイント
本事例は「日給制」等「社員に分かりやすい給与制度」が会社にとってはリスクになることや、公平な給与分配につながらない、という典型的な事例です。確かにドライバー不足の状況の中で「分かりやすさ」というのは重要な要素ではありますが、働き方改革により時間外規制が強化される中で、「日」単位の計算基準を「時間」単位に変更する事が必要となってきています。2.対応策
日給制において「定額残業制度」と「出来高歩合給」を計算することはやや複雑になりますが、公平で正しい給与制度ともいえます。まずは経営者が給与制度を理解し、質問があった場合は丁寧に正しく説明することが出来れば、変更もスムーズに進み、トラブルが起こりにくい制度となるでしょう。関連記事
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筆者紹介
高橋 聡
保険サービスシステム社会保険労務士法人
社会保険労務士 中小企業診断士
1500社以上の運送会社からの経営相談・社員研修を実施。
トラック協会、運輸事業協同組合等講演多数。 -
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