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物流ニュース
「荷主との壁」現状の認識 「輸送できない」断る事業者
2016年5月13日
国内の物流が危機を迎えている。ドライバー不足で「荷物を運べない」と輸送を断られた荷主が約半数、ドライバー不足によって「輸送が遅れた」という荷主が約2割という状況に追い込まれている。しかも、そうした危機認識を理解している荷主は2、3割で、ほとんどの荷主が現在、トラック運送業界に何が起こっているのか理解していない。運送事業者と荷主の間にはまだまだ大きな壁がある。
トラック運送事業者に荷物の配送を依頼した荷主によると、「輸送を断られたことがある」と答えた荷主が約5割となったという。これは、中部運輸局が実施した調査で明らかになった。荷主の依頼を断るという、まるでバブル期のような状況になってしまっているトラック運送業界。その背景には、やはりドライバー不足がある。
輸送を断る運送会社が増えているということは、ドライバー不足だけではなく景気が回復しているからだろうか。帝国データバンクの景気動向調査(2月)によると、「東日本大震災以来となる2か月連続の全地域悪化」という。業界別で見ても、「金融」「建設」「製造」「小売」など8業界で悪化しており、「農林水産」「不動産」の2業界で改善している。5割の荷主が「輸送を断られた」という東海地方でも「国内車両工場全ラインの稼働停止が域内経済に悪影響を及ぼし、域内4県すべてで悪化した」という。
景気が悪化しているにもかかわらず、荷物を運んでもらえないという状況に追い込まれている荷主だが、前出の中運局の調査では、輸送を断られていることや荷物の配送が遅れることについて「なぜだかわからない」と考えている荷主がほとんどのようだ。また、「そのための対策である物流条件の見直しや変更の可能性がある」と答えた荷主は2、3割に過ぎない。
「輸送できない」という危機を、トラック運送事業者と荷主のそれぞれが共有していく必要がある。中運局では「コミュニケーションをはかること、そのために数字などの客観的な情報で課題を『見える化』することが必要」と指摘している。
全国で開催されている「取引環境・労働時間改善地方協議会」でこの問題について、どこまで切り込んでいけるのか、今後も注目していきたい。
■荷主の運送会社に対する声
荷主はトラック運送事業者にどのような思いを持っているのだろうか。昨年、日本ロジスティクスシステム協会が発表した「荷主企業の今後の物流戦略に関する調査」では、荷主の運送会社に対する声が発表されている。その一部を見てみたい。
「契約以外の作業の発生をなくすことが必要。参入障壁が低く、過度な自由化のため、 業界全体が苦しんでいる状況。一定の規制も必要ではないか。中小事業者は、まともな原価計算もせずに低廉な料金を提示して自分の首をしめており、適正物流費が不明確になってしまっている」(製造業)
「ドライバーに運転以外の作業(積み下ろし、運搬など)をさせているため、長時間労働、 作業負荷増大につながり、ドライバーのなり手も減ってきているのではないか。これらは労災が起きた時の責任問題や、契約範囲外の作業での貨物事故の扱いなど問題が多い」(同)
「卸(着荷主)の意向が強く、(付帯作業、時間指定、店別仕分けなど)無駄が多く発生してしまう。特にトラックの待機時間が大きく、場合によっては10時間以上待たされるケースも発生している」(同)
「ある顧客センターは午前10時指定で納品に行った際、下ろせたのが午後4時といった事例もある。時間内に下ろせないときは持ち戻りといった事例もあった。改善例として近隣に一時保管倉庫を設けて横持ちをかける方法がある」(同)
製造業者の一人は「物流業界は儲からない。人材も確保できない。でも、何か起こったときには注目され、責任を追及されてしまうのはいかがなものか」とも指摘している。現在、運送業界の抜本的な改革が求められている。この記事へのコメント
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