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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(144)開拓力の発揮〈事例A〉
2017年2月17日
〈一転自由競争に〉
A社は物流企業として30年、特定荷主1社に仕えてきた。A社の車両数は20台、ほとんどを特定荷主1社に投入してきた。特定荷主はここ3年ばかり、収益が低下してきている。お決まりのパターンで、運賃の削減に着手した。30年間取引してきたA社とは別に、ほかの物流会社に見積もりを依頼した。A社の現行運賃と比して30%ダウンの見積もりが、その物流会社から提出されてきた。
A社のトップは内心、自信たっぷりであった。「特定荷主の物流サービス高度化の要求に、今まで小回りよく尽くしてきたのはわれわれだ。ほかの会社がわれわれと同じことができるわけがない」。いわば、高をくくっていた。
特定荷主の物流担当者は迷った。運賃で言えば、文句なしに新たな物流会社である。しかしA社には、30年の取引の歴史がある。社員旅行、ゴルフ、酒食の席—-と交流は深い。時間指定、緊急配達と、小回りも効かしてくれている。物流担当者は悩む。
特定荷主のトップが交代する。新トップはいう。「過去は過去。しがらみを捨てろ。われわれが生きていくのさえ、どうなるか分からない。物流業者も安くていいところがあったら、今までの業者を代えろ」。物流担当者は、A社のトップに悩みを打ち明けた。
「新たな物流会社が、30%ダウンの運賃見積もりを提出しています。うちのトップは、物流サービスのレベルが今以上に上がっていくのであれば、新しい物流会社に変更するよう、強く言っています。社長、どうしたらいいでしょうか」
A社のトップはすぐさま、新しい物流会社のトップに面会を申し込んだ。
「困りますねえ。運賃のダンピングは、われわれに死ねと言っているのと一緒ですよ。特定荷主からは手を引いて下さい。わたしどもは、30年も取引してきたのですよ。横からきて、よその荷物を奪うようなことはやめてください」
「自由競争の時代ですよ。見積もりしてほしいと申し出があったので、対応したまでのことです。荷物を出す、出さないを決めるのは荷主ですよ。手を引くも何も、無茶なことを言わないでくださいよ」
「おたくとは同じト協の会員で、いわば近所ではないですか。同業同士でダンピングはやめましょう」
A社と新しい物流会社は、特定荷主を間にして対立した。特定荷主の物流担当者は、変わったばかりのトップに呼ばれた。
「何を悩んでいるのか。われわれの会社も生きるか死ぬかの瀬戸際。今までのA社との取引には、慣れ合いもあったはず。A社の乗務員は、どちらがお客か分からないほど横柄な口をきいている。乗務員のレベルも年々悪くなっているし、事故も増えてきている」。特定荷主は、トップの方針で物流をA社から新しい物流会社に変更する、とした。
ところが、A社のトップは納得しない。ついに、特定荷主のトップに面会を申し込んだ。
「新しい物流会社に代えるということは、われわれに死ねということです。われわれをつぶすのですか。われわれをつぶすとしたら、責任を取ってください。どうしても新しい物流会社に代えるというなら、われわれのところの乗務員と車を引き取ってください」
さらに、A社のトップは新しい物流会社のトップにも面会する。
「他人の荷物を横取りするのは許せない。手を引いてほしい。どうしても横取りするというのであれば、こちらにも考えがある。だてに30年も運送会社をやってきたわけではない。表も裏も知り尽くしている」
やけくそ戦法と言うべきか、A社のトップは特定荷主、新しい物流会社に対して、脅しと泣きを入れた。脅しとは「つぶす気か、どうしてくれる」、泣きとは「助けてくれ」。
特定荷主の物流担当者が交代する。今までの前任者にはしがらみがあって、悩みに沈んで身動きが取れなくなったからだ。新任の物流担当者は決断する。
「物流会社を決める権限は、わが社にあります。わが社の方針は、新しい物流会社に代えるということです。今までの働きについては、感謝しています。3か月後には全面交代します。乗務員も車も引き取れません」 -
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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