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  • ブログ・川﨑 依邦

    経営再生物語(299)人材育成について(10)事例(3)

    2020年8月3日

     
     
     

     働く環境は、人を生かしもするし殺しもする。人は環境の中で生き、環境を変えていくのも人だ。したがって人材育成にとって、この環境の果す重みは大きい。

     Bさんは自ら求めて職場状況を変えることで蘇生したし、Aさんは会社からの働きかけできっかけをつかんだ。心の姿勢は働きに影響を与えた。そして心の姿勢は、周囲の条件によって変化する。

     Bさんは私に語ってくれた。「ノロマと言われても、なんとも感じませんでした。どうせ安い給料だし、自分の能力はこんなもんだと諦めというか、悟っていました。先行きの希望もあるわけじゃないし、その日その日を何となく過ごしていたわけですよ。実家の母の言葉は、しんみり心にしみました。年老いた母を見るというのは何かさみしいもので、32歳の自分のこれからの人生について考えさせられました。一生独身でいたいなんて、これっぽっちも思っていないし、結果として1人でいるというだけですからね。帰りの車中で、ぬるま湯から出ようと決意したわけです。ぬるま湯は居心地はいいけど、これではますますダメになると思ったわけですよ。背水の陣ですね。飛び込みの新規営業で自分は蘇りましたよ。なんか自信が湧いてきました」。同じ人間とは思えない。心と環境の変化で、ここまで伸びるのだ。人材育成は当の本人が、その気にならないと進まない。その気にさせるために、あの手この手があるわけだ。

     Cさんは入社5年目の女子社員である。23歳。同じ職場に、人材派遣会社から同年齢の女性が、コンピューターのキーパンチャーとして入ってきた。それまでのCさんは、朝は9時始業ギリギリに飛び込んで、夕方5時にはハイサヨナラで、さっさと帰ってしまうタイプ。指示命令されたことしかやらないし、全体として元気がなく、報告も上司がわざわざたずねないとしない。「ウンもスンもない、にてもやいてもくえない」と上司はCさんのことを評価していた。

     そのCさんが変化した。人材派遣会社の女性が入ってきたことで、心にさざ波が立ったのだ。人材派遣会社の女性は、テキパキと仕事をし、入力作業は自分とは比べものにならないくらい早い。それに上司の受けもいい。「このままでは負けてしまう。自分の仕事がなくなってしまう」。朝は始業30分前に出社し、上司には明るい声で「おはようございます」とあいさつするようになった。仕事も積極的になってきた。仕事上の提案も職場ミーティングでするようになった。この変化は大きい。

     Aさん、Bさん、Cさんのそれぞれのケースは、実際に私が目にした光景である。立派な人材育成教育カリキュラムの徹底も大切であるが、それ以上に働く環境の良き変化も、人材育成のポイントである。働く人、一人ひとりの心を無視しては、やる気にさせることはできない。やる気が人を伸ばす源だ。そのためには働く環境を変えることだ。Aさん、Bさん、Cさんのそれぞれのケースは、そのことの大切さと効果の大きさを教えるものである。

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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