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ブログ・小山 雅敬
第257回:過去最大の上昇幅で上がる「最低賃金」への対策とは
2023年9月8日
【質問】最低賃金審議会の答申を経て、2023年度の最低賃金上昇幅が過去最大(全国加重平均41円上昇)になる見込みと聞きました。中小運送会社における対策や注意点があれば教えてください。
ある運送会社が最低賃金法違反により過去に遡及して不足分の支払いを命じられました。その会社は従業員一人当たり賃金総額30万円以上の給与を支給していましたが、最低賃金を下回るとの指摘を受けました。
賃金の内訳は、(平均すると)基本給15万円、皆勤手当2万円、家族手当3万円(配偶者2万円、子ども一人5000円、4人家族の場合)、通勤手当1万〜3万円(通勤距離に応じて支給)、割増賃金10万円前後(法定の計算により支給)となっていました。
一か月当たり約3万円の不足を指摘され、過去に遡って全員に不足額を支払うよう命じられたのです。仮に皆勤手当と家族手当が別の賃金項目であったなら(例えば、評価手当や住宅手当など)、地域別最低賃金をクリアしており何の問題もありませんでした。その会社は所定内賃金が最低賃金を上回ればよいと勘違いしており、最低賃金に算入されない手当があることを知りませんでした。
ちなみに最低賃金に算入されない手当は皆勤手当、家族手当、通勤手当、時間外手当などの割増賃金、一か月を超えて支払う手当、などがあります。最低賃金法違反の罰則は50万円以下の罰金、さらに運送会社は行政処分(車両停止など)の対象にもなります。また不足額があれば遡及支払いを命じられ、経営に甚大な影響を与えます。
現在、最大の賃金リスクは「未払い残業代リスク」と「最低賃金割れリスク」であり、最低賃金を決して軽視してはいけません。ここ数年、過去最大の上げ幅で最低賃金が上昇しており、未対応の会社が続出する懸念があります。運送会社は基本給を最低賃金と同額に設定している会社が多く、毎年10月の最低賃金改定時に賃上げしている会社をしばしば見ますが、本来は10月に慌てて賃上げするのではなく、普段から余裕を持って最低賃金をクリアする賃金制度が求められます。
今後、2024年問題に向けて、生産性の向上と人材確保を両立させる必要があり、やりがいを高めるためには個々の作業実績を公正に評価して賃金に反映する「業績給」を導入して賃上げする手法が望ましいでしょう。ちなみに「業績給」は総労働時間で除した金額が全額最低賃金の計算に入ります。また同時に最低賃金に算入されない手当は改廃し、意義のある手当に変更すべきです。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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