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ブログ・小山 雅敬
第94回:2019年問題への対応
2016年12月18日
【質問】近々、中小企業において月60時間超の時間外労働に対する賃金を、今の2倍の割増率で計算して支払うことになると聞きました。わが社は月60時間を超えて残業する社員が多く、人件費増加の負担に耐えられるか心配です。対応策などあれば教えてください。
労働基準法の改正は、先の国会で審議される予定でしたが、安保法案の審議に集中した影響で実質審議がなされず、継続審議となりました。次期通常国会で審議される見込みです。今回の労基法改正のうち、中小企業への影響が大きい改正内容が「中小事業主に対する時間外労働の割増賃金率適用猶予規程の廃止」です。
特に中小運送会社は拘束時間が長く、残業時間が他業種より多いため、月60時間を超える時間外労働に対して5割増しの賃金を支払うことになると、人件費の急増が避けられません。この改正部分の施行期日が2019年4月に予定されていることから、人件費の「2019年問題」と呼ばれています。
現状、「自動車の運転の業務」に携わる事業場のうち、月60時間超の時間外労働が発生している事業場の割合は4割を超えており、他の職種に比較しダントツに高い状況です。月100時間超の時間外労働が見られる事業場が1割もあります。運送業は脳・心臓疾患や精神疾患の発生率が他業種に比較して突出しており、長時間労働による過労運転が大事故につながるリスクを考えると、長時間労働の抑制は避けて通れない課題です。
さらに最大の経営課題である「人材採用・定着」への対策としても長時間労働の抑制が必要不可欠となっています。これらのことから労基法改正への対策として、まずは現状の労働時間改善が必要といえます。従来なかなか進まなかった手待ち時間の削減についても、もう先延ばしが出来ません。撤退覚悟で荷主と真剣に交渉する時期が来ました。
一方、荷主も真剣に検討しなければならない社会情勢になっています。物流に携わる人材が枯渇することは物流がストップするリスクに直結するからです。積み下ろし作業の改善、出荷建屋の導線見直しなど、労働時間を10分削減する努力から始めることが肝要です。協力して改善することでパートナーシップが高まり、物流品質向上にも結び付きます。なお、現状の作業環境を改善する一方、現在の賃金体系や時間管理など労務管理全般を見直す検討を始めるべきでしょう。
従来の賃金体系や時間管理の方法で良いのか、改善の余地があるのか、より実態に合った合理的な体系を早めに検討することも必要です。
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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