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物流改革を通じた成長戦略PT 山内委員長に聞く(後編)「デジタル物流人材の育成」
2020年9月14日
経済同友会は、日本経済団体連合会、日本商工会議所と並ぶわが国の経済3団体の1つ。会員はすべて個人で、1企業や特定業界の利害にとらわれない経営者のイデオロギーを構築。国民経済の面では自由な議論で様々な問題に対する意見や提言を表明するなど影響力は大きい。経済同友会で、ヤマトホールディングスの山内雅喜会長が委員長を務める「物流改革を通じた成長戦略PT(プロジェクトチーム)」は、新たな提言「物流クライシスからの脱却~持続可能な物流の実現」をまとめた。データテクノロジーで、物流は大きく変えることができるが「データをただ分析するだけでなく物流に活かして大きな変革を起こしていける人材が必要」と強調。IoT、AIなど新技術の活用力や従来とは異なる科学的視点から物流をデザインする構想力を持ち、かつ物流現場の知識も併せ持つ人材を「デジタル物流人材」という新たな表現で示した。
――「デジタル物流人材の育成」について「大学教育の場を活用する」とは、具体的にどのようにすれば良いのか。
物流業界はある意味で多くが「文系人材」。「勘と根性」でやってきた人ばかり。(笑)
これまではそれで良かったが、今まさにデジタル社会を迎えている。デジタルの力を使えば、30%、40%の効率をまだまだアップできる。AIを使い、データを活用していけば、もっと物流を効率よく組み立てられるはず。これが遅れている。「じゃやろうか」と言っても、なかなかそういう人たちがいないのが現実。採用しようとしても「データのことは分かります」と言う人はいても、物流そのものを知らない。仕組みを知らない。今は、専門企業や専門家に委託しているが十分ではない。やはり、学生の段階から国家戦略として、そうした人材を育成することが大事だと思う。
「持続可能な物流」を実現するために、人材を国家として育てなければいけない。物流のことも分かっていながら、デジタル技術を分かっている人材が育ってくれば、企業に入って、全体の物流のデザインを描ける。テクノロジーを使った形での本来あるべき、将来あるべき物流の形を作っていける。こうしたテクノロジー人材を作っていくべきだ。
――情報化社会が進展すればするほど、物流は多頻度・少量化が進むと指摘されるが。
結局「運んでほしい」という要請はなくならない。最後はリアルなことだが、どんなに情報化社会になっても、届かないといけない訳で。情報化が進めば進むほど、やりとりが細かくなり、リアルの世界では、もっともっと多頻度で少量になってくると思う。それを支えるのがAIとかIoTなど、いわゆるデジタルテクノロジーになる。
仕事として「社会に貢献できる」ということが(学生に)分かってくれば、もっとそういう人が増えてくると思う。
――「大型自動車免許を有する女性の活用」も提唱されている。
女性用の「トイレがない」「着替える場所がない」など男社会だったので、こうした職場環境を整えることが先決。また、「働き方」。「きちんと時間管理がされている」とか「泊まり」はなく、お子さんのこともあり「毎日家に帰ってこられる」などの配慮が必要。これらは当然のこと。
一方で、男性と女性の身体的な差(身長差など)がある。だから、ハード面で工夫が必要ではと。
車両もどんどん進化して、例えば、重たいハンドルも今では軽く回せるパワーステアリングになっているが、女性からは、ステップが高すぎて運転席に上るのが大変などの声も聞かれる。自分の身を守るために「もっとこういうことをしてほしい」との様々な要望があるらしい。ただ、データとしてはないが。
車の構造として女性に向けた車両(ハード)は何かということをもっと追求していく必要があるのでは。「働く場」と「働き方」そして「使う道具(トラック)」としても優しい環境があると、働いてくれる女性も増えるのではないか。女性で大型免許を持っている人は15万人いますからね。そのうち実際に、就業しているのは2万人といわれる。
とくに長距離ドライバーなどはこれから不足するので、大型免許を持っている女性が活躍してくれるといいなと思う。
――ドローン物流が実現して、自動運転の時代が来たら、ドライバー不足は解消するとの意見もあるが。
それらは確かに近いうちに部分部分で実現していくだろう。だが全体では一足飛びには進まない。素晴らしい世界はできるかもしれないが、デジタル社会の進展で、小口・多頻度化が進む中、今でも対応しきれていない物流が、現実に、今この10年間を乗り切るために、2028年には28万人のドライバー不足が予測される中、きちっと足元を固めておかないと本当に間に合わなくなる。様々な社会的課題は、物流事業者だけでは解決できない。荷物を送る荷主企業、受け取る側の小売などを含めたサプライチェーン全体で取り組むことが必要。
――「物流デジタル化・標準化団体の設立」について。
共同配送の進展に、現在障壁となっているのがパレットやダンボールなどの規格がバラバラなこと。長年指摘されてきたことだが、規格を「標準化」する必要がある。共同配送では、荷物同士の香り移り、保冷温度帯の微妙な差、鮮度やキズなどへの問題に対するルールも必要だが、デジタル化の進展で基準となる尺度の設定や測定による可視化が図れるようになったので「標準的な混載品基準」の策定も求められる。
これらの実現では、メーカー、卸、小売など荷主企業を含めた横断的な団体を設けることが必要。内閣府などに設け、国家戦略として進める。また、各種データなどを活用したスマート物流を実現しようというSIP(戦略的イノベーション創造プログラム)という国家プロジェクトが動いているが、これと連携するのも重要だ。
SIPは、情報を色んな業界とつなげようとしており、これと連携してやっていく必要がある。
――「行き過ぎた水準の商慣行」について、具体的に。
サプライチェーンで言うと、「翌日納品」。納品時に「都度検品」すること。走っている時間でなく、確認に時間をとられている。これが「翌々日納品」になれば2日前から体制が作れるので無駄が省ける。
今はAIを使って、かなり正確な需要予測が可能になっている。昔通りに「翌日」でなくても、計画的に納品できるし、「検品」もデータで十分。聞いた話だが、今はほとんどエラーはないらしい。送る側でチェックしているので、普段からずれることはないという。それをもっとデータを自動化しておけば、検品そのものをなくすことが可能。こうしたことを実現していくと、自ずとデジタル化が進展することになる。
すべての消費者が「翌日配達」を望んでいるわけではない。宅配でもそうだが、過剰なサービス、過剰な商慣行はやはり見直ししていくべき。行き過ぎたサービスは、必ずしも「良いサービス」ではないと思う。
――新型コロナウイルス感染症の影響で、「新しい日常」が叫ばれる中、物流はどうあるべきか。今年度のテーマとして、改めて提言されるとのことだが。
新型コロナウイルスを踏まえて、生活スタイルは変わるだろうが、リアルな物流が必要ということは変わらないので、新しい日常の中、物流はどういうところを「変えていかなければならない」のか、今年の年末から年明け3月くらいまでにまとめて提言したい。
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