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物流ニュース
人材不足だからこそ重要 トラックドライバーの育成
2021年1月15日
労働人口が減少するなか、現役トラックドライバーの高齢化が進んでいる。ドライバー不足が課題となっている運送業界では、若い世代のドライバー採用が急務となっているが、現状は簡単ではない。だが、せっかく入ってきたとしても、経験者しか採用してこなかった会社や未経験者を育てるノウハウがない会社は、新人を定着させることもできない。定着率を高めるためには、プロとしてのドライバー育成が重要となる。
物流業界最大手の日本通運(齋藤充社長、東京都港区)では昨春から、現場第一線におけるドライバー教育の指導員制度をチームリーダー(1732人)並びにスーパーバイザー(993人)制に変更(人数は4月時点)。各課所毎にチームリーダーとスーパーバイザーがおり、年に1回行われるドライバー教育や日常の教育指導にあたっている。
同社は、安全、品質、コンプライアンスを経営の基本としており、齋藤社長も「安全はすべてに優先する」として、安全に愚直に取り組むドライバーの育成に力を入れている。入社時のドライバー教育ではまず、運転に関する基本的な知識や、運転・接客マナー、安全と品質、コンプライアンスなどが教えられる。その後、配属先で運転基本研修が行われる。
配属先での初任運転者研修では、座学が15時間以上、実務研修として乗務実習が20時間以上行われる。実際に事業用自動車を運転するためには、社内検定制度である検定試験に合格しなければならない。この試験に合格してはじめて、事業用自動車の運転が許可される。なお、検定試験に合格すると名刺サイズの社内資格証が発行され、それが社内での運転免許証となる。
ドライバーの育成について、同社安全衛生推進部長の井関英也氏は「育成内容やシステムの充実はもちろんだが、指導者を育てることも重要」とし、「指導者をさらに指導する人は、全ト協のドライバーコンテストに出場した者の中から選ばれた本社指導教官(4月時点で36人)が担っている」と話す。
本社指導教官は指導者であるチームリーダーやスーパーバイザーと同様に、普段は現場にいて一般の業務を行いながら、指導者への研修が行われる時には、本社指導教官として教育にあたっている。
ドライバーを育成する上での課題について、井関氏は「世代間でコミュニケーションが取りにくいことが問題」としており、「特に若い人とコミュニケーションをとることが難しい人が増えていることから、月1回の職場全体会議での意見交換や、ドライバーコンテストなどへ参加することで、世代を超えたコミュニケーションが図られることを期待している」という。
同社ではこのように、ドライバー育成にはコミュニケーションも重要だと考えている。また、効果のある育成を行うためには、BIツールによる解析や視線追尾システムによる安全確認の検証も教育の主要ツールとして導入を進めている。
安全第一を最優先に考えている齋藤社長の思いは強く、「研修するなら最良の環境で行うべき」ということで、同社の80周年の記念事業の一環として、伊豆の韮山にある研修センターをリニューアル。来年秋口の全面竣工と同時に、教育も刷新していく考えだ。
このように業界大手企業は、物流業界並びにトラックドライバーの地位向上のために、プロドライバーの育成に力を入れている。しかしながら、ドライバーの確保が思うようにできず、十分な育成時間や余裕が無い事業者が、新人ドライバーを育成することは容易なことではない。
荷主から信頼され選ばれ続ける「プロドライバーの育成」を手掛けている日本トラックドライバー育成機構(東京本部:東京都台東区)で代表理事を務める酒井誠氏は、「トラックドライバーの高齢化が進む中、未経験者を戦力にしていくことが重要だと思われるが、運送会社の多くは人手不足で余裕がないため即戦力の募集を優先している」と話す。
人が欲しいところほど、教える人や採用する人に余裕が無く、未経験者をしっかりと育てることができない状況となっている。
「経験の浅いドライバーをプロのドライバーに育てるためには、育成計画を立てることとチーム作り、世代に合わせて教え方を柔軟に変えることも重要なポイント」とした上で、「ドライバーとして技術が高いからといって教えるのも上手だとは限らないため、教える力のある指導者を育てることも重要」としている。
だが、ドライバー育成を行う時間や余裕が十分に取れない運送事業者も多く、そうした事業者のために、同機構ではオリジナルの教育ツールとしてDVDを会員サービスとして提供。会員事業者からは「DVDを流すだけで教育ができるので手間が省ける」「映像で見るとわかりやすいので教えるツールとして活用しやすい」と好評で成果も出ている。
酒井代表理事は「育成の仕組みとしては、基礎をベースに学ぶことが重要で、日本トラックドライバー育成機構としては、タイヤの点検を重視している」とし、「プロのドライバーとして、運行前点検は基本であり、そういうことをしっかりとやっているドライバーは、実際に事故を起こしていない」という。
いろいろな仕事に対応できるドライバーに育てることが定着率につながるとして、ドライバー育成ではプロの自覚やマナーなど、何をすべきかを具体的に教えることが必要だとして、精神論はもう通用しないとしている。
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