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運賃下落で待望される「63条」 発動に消極的な国交省
2012年6月11日
貨物自動車運送事業法第63条について議論が盛り上がりつつある。標準運賃及び標準料金について記されており、輸送力の供給過剰で運賃、料金が著しく下落するおそれがある場合、健全な運営を確保するために期間を定めて標準運賃及び標準料金を定めることができる、とするものだ。国交省は63条の発動については否定的な見解を示しており、63条ではなく同法第26条にある事業改善の命令(運賃・料金の変更命令)の可能性を示す。しかし、26条については「過去に発令したことはない」としており、同法に健全な運営を担保する運賃に関する条文が設けられているものの、その実現性、有効性は大いに疑問視されるところだ。
関西のある運送会社では社会保険事務所から社会保険加入の再三の要請があり、従業員に加入を要請したところ、2か月前に2人の運転者が会社を去った。車両20台を保有し、月々100万円を超える社会保険料の負担は大きく、業界団体の厚生年金基金も事業の大きな足かせとなっている。社長は「規制緩和から運賃の下落は著しく、それまでタリフの下限の下をくぐってやっていたが、今はその3─4割減。燃料費は2年前と比べ1リットル20円近く上昇し、月の燃料費は80万円近い負担増。会社はかつかつでやっているから、社会保険の負担を嫌がる従業員の気持ちもわかる」と話す。
さらに、「2トン車で月50万円の売り上げがない。運賃が今より2割上がれば何とかやれるのだが。荷主だけでなく、国も殺しにかかっている」と話し、「なぜ63条が発動されないのだ」と続ける。
国交省の説明によると、同法第63条にある標準運賃とは平成11年の公示運賃。63条は同法の制定時にセーフティネットの一つとして挿入されたと考えられるが、運賃が低迷している現在、国交省は発動について否定的だ。理由として二つの資料を挙げる。国交省発表の自動車輸送統計年報の実車率と、全ト協発表の第18回トラック運賃に係る調査報告書だ。
実車率とは走行距離に占める、実際に荷物を積載して走る走行キロの割合。平成2年から直近まで半年ごとに統計を取っているが、「実車率は60%後半で横ばいに推移しており、大きな上下動がない」。また、トラック運賃に係る調査報告書は運賃の推移を示すものだが、平成15年2月から半年ごとに統計を取っているもので、同月の運賃を100とし、「直近まで100前後で、横ばいで推移している」と説明。「数字上で大きく落ち込んでいるとは言えず、二つの数字が大きく下落しているとき、健全な運営の確保ができていないことになる」と話す。
また、担当官は63条発動の前に、まず個別の事業者に26条の事業改善命令を発令するとのこと。「不当にダンピングし、荷主、運送事業者にとって利害が損なわれている状態。事業者には原価があり、原価を示すのが困難な場合、事業計画に不適切な部分があると判断し、改善命令を出す。改善命令で対応しきれない場合に、63条を検討する」という。
しかし、「これだという運賃を改めて指し示すのは実勢運賃、市場のバランスに悪影響を及ぼす可能性がある」とも付け加え、26条の発令も慎重になるとし、実際、過去に全国で26条の命令を受けた運送事業者は1件もないという。それゆえ、担当官も63条の発動は、「ハードルが高い」と認めている。
規制緩和後、運賃は下落の一途をたどり、実勢運賃と平成11年の公示運賃では大きな開きがある。例えば、大阪―東京間では一般道だけの最短ルートで距離は509キロ。公示運賃では10トン車で14万2000円、4トン車で9万5500円(いずれも片道)。しかし、実勢運賃は複数の事業者では10トン車で6万5000─9万円、4トン車で4万─7万5000円との声が多い。
1日の地場運賃でも11年公示運賃(近畿)では、8時間で2トン車が2万8310円、4トン車で3万3340円、10トン車で4万7260円。実勢運賃は2トン車で2万円、4トン車で2万3000円、10トン車2万8000円前後とするところが最も多かった。(大塚 仁)
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