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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(199)後継者の育成〈事例A〉
2018年5月29日
〈オヤジとリーダー〉
A社長は70歳である。物流業を創業したのは、45歳の春。今では、車両台数50台、社員数70人の中堅物流業に成長している。年商は10億円、経営は堅実である。
A社の経営会議のメンバーは、6人である。全員が現場出身で、創業メンバーである。A社長が独立の旗を上げた時、運転者として集まった者たちである。
A社の成長要因はどこにあるか。
①人一倍汗を流したこと
独立した時は、青ナンバー(免許)ではなかったので、同業者が嫌がる仕事を引き受けて、人一倍汗を流した。手積み、手下ろしは当たり前で、汗びっしょりの日々に耐えてきた。このハードワークに耐えてきたのが、成長要因の一つである。
②柱となるメイン荷主をつかんだこと
創業して10年は、文字通り地をはってきた。免許を取得して、メイン荷主をつかむことができた。はじめは、わずかな額であったが、徐々に拡大していった。荷主が高度成長の波に乗ったのである。運送、それに配送センターの運営と、業容を拡大していった。必死についていった。こうした一歩、一歩で中堅物流企業へと脱皮していった。
③A社長の人柄
創業メンバーの運転者が、経営幹部となっている。A社長についてきている。A社長を〝オヤジ〟ということで信頼している。経営幹部は全員、50歳を越えている。50歳を越えても、忙しい時には大型車のハンドルを平気で握って走る。フォークリフトにも乗る。全員が、野戦型のリーダーである。プレイングマネジャーである。1日中、机に座っていることは、まずない。
とにかく、体を動かす。A社の成長要因は、結局のところ、人一倍の汗、メイン荷主の存在、社長の人柄に求めることができる。
この成功要因に、暗雲がたち込めてきた。経営幹部も50歳を越えて、体力も弱ってきた。かつては24時間、眠ることもなく働き続けることができた体力も、年には勝てない。さらに社長も、70歳の坂を超えた。これから、A社はどうなるのであろうか。
「社長と一緒にやってこられたメンバーも、50歳を越えました。後継体制はどうですか」
現在の経営幹部の役職は、単に〝リーダー〟である。役員ではない。リーダーの中から、経営を任せられる人物はいるか。ドングリの背くらべであり、無理にだれかを引き上げようとすると、波風が立つ。引き上げられた者へのやっかみ、ねたみが生じる。「今まで一緒にやってきたのに、何であいつだけが役員に登用されるのか」との声が起きる。
A社長は、役員構成は家族で固めている。ファミリーカンパニーという側面がある。
筆者の問いに対して、A社長は「分からない」と答える。A社長には、息子がいる。40歳である。この息子は、学者の道に入っている。
「今さら〝家業を継げ〟と言っても、わしの息子には無理ですよ」「確かに無理かもしれません。しかし、ファミリーカンパニーである以上、息子さんしかいませんよ」
配送センターの土地取得と建物の設備投資で、3億円の借金がある。この借金を他人にすんなりとかぶせられるであろうか。まして、リーダーは全員現場出身で、今でもハンドルを握る者ばかり。いわゆる、経営者タイプではない。
「後継体制はどうしますか」重ねて、筆者が問う。「もっといい会社にして、だれかに売るしかないかも知れません」と社長は苦笑いする。
(つづく)
この記事へのコメント
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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