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労務管理
運送業界 労使トラブルの傾向と対策
2020年4月16日
運送業界は依然として労務訴訟件数トップクラスの業界のままだ。
業務内容・事業形態の関係から訴訟リスクが高まりやすい背景もあり、様々な角度から対策が必要となる。
建交労の鈴木正明中央本部書記次長は「最近持ち込まれる相談内容も多岐に渡っている」と話す。そうした中で共通している相談内容として、残業代などの「給与未払い」、過重労働に起因する「過労死等の事故」、加えて「違法解雇」があるとのこと。
更に、これらは単独でなく「過重労働が常体化していて労務管理・残業代計算も行われていなかった」などのように、それぞれのトラブルが相互にリンクする形でトラブルを引き起こしているケースも少なくないという。同氏は「トラックドライバーは、長時間労働に加え、脳梗塞、心筋梗塞などの身体的リスクを抱えやすい。改善基準告示の改正に向けて議論も行われているが、まだまだ使用者側に立った部分がある。労働者にとっての最適化は先では」とし、続けて「労働時間の上限規制に関係なく、働きたがるドライバーがいるのも確か。しかし、それでも国・業界で待ったをかけて安全な労働環境を構築していく必要があるのでは」と分析。
山下江法律相談事務所東京虎ノ門オフィス(東京都港区)で、運送企業をメインの顧客としている弁護士の岡篤志氏は「最近受ける相談の中で印象に残っているのは、パワハラやセクハラをきっかけとした残業代請求」としている。同氏によれば、この残業代請求では元々ドライバーら従業員が意図していたものではなく、パワハラやセクハラなどに対する訴訟を考えていた所、残業代請求にも考えが及び労務トラブルが顕在化したケースが該当するという。同氏は「運送業界は残業代をはじめとした訴訟による倒産が起こりやすいとされている業界。現体制を昔から続いているやり方だから、と考えるのは危険。従業員側が、嫌だと思った出来事に対し解決の方法を見つけやすくなっている」と指摘。
パワハラに関して判断するべき点は有形力の行使だという。「叩く、さわるなどの物理理的接触はもちろん、就業中の指示・注意などの声かけでも事実を伝えるのではなく、発言者の主観によるものであればパワハラになりやすい」とし、「パワハラのガイドラインも厚生省などから出ているので具体例などを確認し防止に努めてほしい」としている。
よつば総合法律事務所(千葉県千葉市)に勤め、運送業界にも顧客を持つ弁護士の村岡つばさ氏は「残業代関連の相談は多い。去年末から数えても10件近くの相談がある」と話す。同氏は残業代請求に対し、着手金を一切取らない費用体系の弁護士の増加をあげ「弁護士に依頼するハードルが非常に低くなっている」と指摘。加えて近年の傾向として「円満退職でも残業代で訴訟されるケースが増えた印象がある」と分析している。
こうした状況に対し、直近で行うべき対策の一つに給与体系の見直しをあげている。中でも日給月給をベースに基本給・残業代を明確に区別し清算していないなど、残業代のケアがされていない企業に対し強く警鐘を鳴らしている。
さらに、勤務実態の把握と記録のトラブルについても言及。紛争化した際に顕在化するケースも多く、固定残業代を無効とし追加で残業代請求を行う者もいるとのこと。その際には拘束時間を全て労働時間とした上で「休憩を取れないほどの忙しさだった」として休憩時間に当てられている時間帯も労働時間と計算しているケースが少なくないそうだ。
こうした訴えの際、同氏は「デジタコ・業務日報で記録があれば反論が可能になるが、無ければ困難。大変かもしれないが、これからは残業代未払い請求の時効も延長され訴訟リスク・金額も増加のおそれがある。ボタンの押し忘れなど適切な記録の有無と共に記録の確認・休憩時間の把握・給与への反映など一度確認されることをオススメしたい」と話す。
杜若経営法律事務所の岸田鑑彦弁護士は「傾向として、集団で請求するケース、休憩時間が取れなかったなど違法行為があるとリークする動きを見せながら未払い賃金・または違法行為に付き合わされた慰謝料を請求するケースが比較的見られる」とし、続けて「運送業界では長時間労働など業態上、どうしても発生してしまう面もある。しかし、個別で可能な限りの対応を行い、訴訟リスクを低下させる事は有効」として、対策を進めている。
同氏は「コンプライアンスに則って運営されている会社に限るが」と前置きしつつ、事例として「ドライバーと定期的に支払い内容の見直しを行っている企業」をあげる。同社では管理者が定期的にドライバーと書類を確認した上、給与計算など間違いの無いと認めるサイン・押印をしているそうだ。同氏によれば、こうした書類を定期的に作成している企業は比較的、賃金未払いなどの訴訟トラブルに巻き込まれ難いとのことだ。
更に同氏が今、対策の必要性を問いているものに、今年4月から施行される民法の改正に伴う残業代をはじめとした請求期間の延長がある。「いきなり4月1日から遡って請求できる期間が伸びるのではなく、4月からカウントされる分について延長されることになる。記録管理期間の延長に加え、どこまでが労働時間と見なされるのか、法令に合わせた適切な支払い方法なのかを見直していただきながら、時間制限・上限規制などを考慮した荷主企業との交渉を行っていく必要があるのでは」と分析している。
なお、荷主企業との交渉について「トラブルの種となる可能性は低いが」としつつ、コロナウイルスへの対応協議も勧めている。「感染リスクのある業務など、どこまでの業務を可能とするのか予め決定しておくことで無用なトラブルを防止できる。安全配慮義務違反防止ということであれば自社でマスクを配るのも、いざという時の対策になる」としている。
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私は会社に一切の期待はしない。このコロナ騒動で便は減り必然的に給与は下がるのに社長は餅代も出さない。だから私は自分の仕事以外の仕事は絶対にしない。経営者一族郎党は決算賞与も満額支給なのに、コロナ感染リスクを抱えながら(取引先で感染者発生)走る運転手には一銭も出さないんだから仕方ないよね。
コロナで不況になると転職も厳しくなるので、残業代どころの話ではなくなるかも・・・。走れることに感謝しないといけない時代に逆戻りか・・・。
運転手は給料下がって生活苦なのに社長はレクサスの新車購入これで見切りつけて残業代請求して退職 お陰様でクラウン買えるぐらいのお金頂きましたその元手で次の事業頑張ってます
入社してから一年半ですが、一度日曜出勤に応じたために要請が強制に、一回が二回に、真夜中でも交替出勤要請の電話が鳴る始末。何度も改善要求しても聞く耳持たず。揚げ句の果てには家族の病気で有給休暇を取得した私を攻撃してくる平社員に注意することなく放置しているという体たらくな取締役をどうしたら良いのでしょうか?
完全にパワハラ、モラハラの訴訟案件ですが、先日、社長に直訴しました。
何のあれもないので退職してから労働審判に持ち込んでやろうか?と思っております。すべて時系列で記録し、給料明細もあります。あとは交渉時の音声録音だけです。