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    二重就労に走る運転者 労働者保護策が「隠れバイト」導く

    2011年11月14日

     
     
     

    truck_1114.jpg 「問題が問題として上がってこないことが一番の問題だ」。労働基準行政の現場からこんな声が聞かれる。働く者の保護策として位置付けられる拘束や労働の時間基準がむしろ、賃金水準が下がるトラックドライバーの労働時間の管理を困難にさせ、運行上の安全が一触即発的に脅かされようとしているからだ。賃金低下→二重就労→過労→事故誘発といった流れは実際の運送現場で起きていることであり、議論が必要だ。



     近畿地方の運送会社の経営者は最近、ドライバーからこんな相談を受けた。「生活費が足りない。もっと仕事をさせて欲しい」。

     このドライバーが就いている現在の仕事をこなすだけでは、労働時間の規制に抵触する水準までには達しない。しかし、もう一つ別の仕事を振り分けようとすれば、1日あるいは1か月の拘束時間を定めた「改善基準告示」(厚生労働大臣告示)に抵触してしまう。抵触しない範囲で都合よく仕事が振り分けられれば一番いいのだが、仕事需要の絶対量が減っている運送業界では、なかなかあてがえるものではない。

     経営者はドライバーに事情を説明。一定の理解を示したが、別の機会に「では夜間のアルバイトを許可してください」と願い出た。就業規則で二重就労を禁じており、経営者は、昼間の運行に安全上の支障が出ることなどを説いた。ここでも一応の納得をしてドライバーは引き下がった。

     経営者は話す。「住宅ローンなど固定の借金があるドライバーに満足な賃金を出せないでいて、会社が二重就労を禁止することは事実上できるはずもない」。もし禁止したとしても生活に事欠けば、隠れてアルバイトをするだけだ。そのうえで経営者は、「時間当たりの生産性が低下している現実があり、労働時間を規制した告示はむしろ、労働者を『隠れアルバイト』に導いているようなもの」と指摘する。

     別の経営者は次のようにも指摘する。「告示基準に抵触したとしても、一つの会社で労働時間を管理し、ドライバーの疲労具合をチェックできるほうがまだ目が行き届く。別の会社で隠れてアルバイトをされたら管理も何もなくなり、運行上の安全も問題ではないか」。

     生産性が上がらないなかでの現状の法制度は、経営者らが言うように隠れアルバイトを誘引し、安全を逆の面から脅かす存在なのか。労基署の専門官は、「これは政治の問題です」と言い切った。つまり、会社と労働者の1対1の関係という前提のもとに労働者を保護するのが労働基準法の立場であり、会社が二つある二重就労の関係において、行政は扱えない、ということだ。

     では、どの程度の相談があるのか。専門官は「少ないです。労働者が問題として提起してこないからでしょう」と話す。ほとんどの会社の就業規則で二重就労が禁じられており、アルバイトをするときは「隠れてやる」という負い目があるため、労働者側が問題提起できない構造になっているという。

     事業者側から問題提起されることはないのか。別の専門官は労働基準法38条の条文を引き合いに出し、その可能性を否定する。

     38条は、事業場が二つ以上ある場合も、一人の労働者に関する労働時間は、すべての事業場を合算する、との趣旨の条文だ。もしいずれかの事業者が、アルバイトと本業を掛け持ちしていることを知っていた場合、別の場所で「残業」をしていたことと法律上はみなされ、残業手当が発生してしまう。万一、労働災害でも起きたときには、超過労働を知りながら仕事に就かせていたとの理由で、民法上の責任も大きくなってしまう判例もあるという。

     ある運送事業者は、「こういう問題こそ、政治の場で改正が必要かどうか議論して欲しい」と話している。(西口訓生)

     
     
     
     
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