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ブログ・小山 雅敬
第80回:トラック事故の発生傾向と指導のポイント
2016年4月25日
【質問】最近、交差点での自転車巻き込み事故が多く発生しています。安全運転の指導を一層強化する必要がありますが、最近の事故発生傾向と、どのような点に気を付けて指導すれば良いかを教えてください。
トラックの事故は少しの不注意で大変大きな被害をもたらすため、運転時に細心の注意を要します。特に大型トラックでは、マイカーの運転時に必要とする注意レベルの3倍以上の注意力が必要と言われます。最近は高齢者の死亡事故が増加しており、運送業のように運転者の平均年齢が46歳を超えて高齢化している業界では特に注意しなければなりません。
運送業における事故発生者の平均年齢は約45歳です。運動能力の低下や健康に起因する事故が多く発生しており、毎日の健康状態確認と繰り返しの指導が必要で、実際に事故が起こる前に指導や管理を強化することが重要です。今は点呼時に体温や血圧の測定をして記録するぐらいの管理が求められていると言えます。一般的な口頭での確認にとどまらず、ルールの一歩先をいく健康管理が望まれます。これが社員とその家族、そして会社を守ることにつながります。
運転時に特に注意すべきポイントを挙げると次の3点となります。(1)事故が発生しやすい「交差点」、漫然運転が生じやすい「直線道路」、死角が多い「駐車場、構内」の三つの危険箇所について徹底して運転動作を指導(2)視界が悪く、疲労が蓄積する「夕方や夜間」の運転動作を指導(3)「焦り」で生じる危険運転を防止するため、遅延の回復など無理な運行をしないよう本人および運行管理者に指導――。特に、荷物の積み忘れや荷主への着時間の遅延などが発生した場合に要注意です。焦って速度超過を生じ、大事故を発生しやすくなりますので「安全最優先の原則」を社内で十分徹底しておく必要があります。
この3点に共通していることは「減速が中途半端な時に、多くの事故が発生している」ことです。実は事故の大半は時速30キロ以下の低速状態で発生しています。交差点などの歩行者や自転車などが集中している場所、右折左折時などで減速はしているのですが、中途半端な減速であるため事故につながっています。低速運転ではなく、一時停止、またはすぐに止まれる徐行(時速8キロ未満)や最徐行(時速5キロ未満)で運転するように教育指導する必要があります。
夕方や夜間のように視界が悪くなる場合、対向車のヘッドライトで歩行者が全く見えなくなる現象が生じますが、これも歩行者の横断の可能性を予測し、すぐに止まれる速度で運転することが事故防止につながります。「どう走るか」よりも「どう止まるか」のほうか大事だと指導してください。
トラックの運転に慣れてくると、大丈夫だろうという「だろう運転」に陥りやすく、見えないところに歩行者がいるかもしれないという「かもしれない運転」の基本を忘れてしまいがちです。常に基本に忠実に運転動作をしてもらうためには、社員が嫌気がさすぐらい、何度も繰り返して指導する以外の方法はないと思います。
私が見てきた会社でも、事故を発生させていない会社は、発生している会社に比べて格段に頻繁な教育指導を行っています。今、月に1回研修指導をしている会社は2回に増やせば、それだけ事故が減るでしょう。運送業では全員を一堂に会して研修するのは困難ですから、事業所ごと、班ごとなど小刻みに実施する工夫が必要です。
研修のやり方としてはドライブレコーダーの映像を活用する方法が最適です。実際に仕事仲間がいつもの道路を運転している状況を見ながら、減速の仕方を確認したり、ヒヤリハットを探し、話し合うなどの方法が最も効果的です。ドライブレコーダーが無い場合は、付近のヒヤリハット箇所を想定して運転の仕方を教育するなど、身近に自分のこととして実感できる指導方法をお勧めします。
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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