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機能しない前職照会 「事務的か人情か」苦悩の両者
2010年10月7日
人材を採用する際、気になる要因の一つが前職だ。「勤務姿勢」や「辞めた理由」は知っておきたい項目だろう。そのため、前の会社へ問い合わせる前職照会を行う事業者も少なくない。しかし、有効かといえば必ずしもそうではないケースがある。前職照会で嘘が発覚、採用したものの、そのドライバーとトラブルになった物流事業者は、「欠勤や事故歴など、事務的に答えられることは答えるよう義務化するなど、法整備が必要ではないか」と指摘している。
埼玉県の事業者は先日、ドライバーを解雇した。面接では対応も良く好印象だったため、その場で採用を決めかけた同社社長だったが、前職を辞めた経緯に一抹の不安を感じ、前職照会を行った。その結果、「事故歴にも勤務姿勢にも問題がなく、採用に支障はない」との返答で採用を決めた。ところが、しばらくしてドライバーの欠勤が目立つようになり、当日欠勤など、業務に支障をきたした。同社長は「会社に悪影響を及ぼす」と感じ、ドライバーと話し合い、解雇を通告した。
法に則った処理なので労使トラブルに発展することはなかったが、「ドライバーの言葉がショック」だという。前職を辞めたのも欠勤の多さが原因だと打ち明けられたのだ。
「前職照会での『問題ない』は嘘だと分かった。確かに言いにくいだろうが、隠すことは業界として良いことではない」とした上で、「事故歴や欠勤などは、嘘がつけないよう法律で定めてほしい」と指摘する。
一方、前職照会を受ける立場としても難しい側面がある。千葉県の事業者は、以前に同社で死亡事故を起こしたドライバーの採用を考える会社から照会を受けた。
そのドライバーは勤務態度も人柄も悪くはなく、死亡事故を起こした事実だけがあった。そのため、照会に対して同社長は「勤務態度に問題はない」と回答し、死亡事故の事実は伏せた。
「死亡事故を除けば問題がない人物であり、それが原因で不採用になっては…」との情が働いたのだ。「その人間の人生が左右されるかもしれない中で、会社に多大な迷惑をかけるトラブルならまだしも、そうでなければ、正直に伝えることは難しい」と話し、さらに「前職照会で不採用とされた事実が本人に分かれば、恨みを買うかもしれない」とリスクを吐露する。
「辞めていった人材にはもう関わりたくないというのが、どこの会社でも考えること」だとし、前職照会がうまく機能しない現状を指摘する。前職照会をしても、有効に働いていないなら無意味。だから、法整備の必要性もあるが、照会を受ける側にも言い分や立場があるだけに難しい問題だ。(高田直樹)
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