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「高速道路上の事故死」 道路保全会社が語る実情
2010年10月13日
親族なども含めた交通事故の当事者と、その他大多数。一つの事故発生の瞬間から人間社会にはそんな、目には見えない区分けができてゆく。今回話を聞かせてもらった方々の職業は、人の死、とりわけ高速道路上の事故死について、当事者とは言えない、しかし全くの無関係でもない第三の視点を提供してくれる。
9月29日、中国自動車道の兵庫県・西宮北インターチェンジ。10月中旬から始まる「集中工事」を無事過ごせるようにと、午前中に神職を招いて祈祷を済ませた。午後からは、2週間後に向けた準備が始まった。IC施設内にある道路保全会社「西日本高速道路メンテナンス関西」。阪神保全センターの神戸事業所も今回の工事に出動する。同事業所・上級専門役の三俣和則さんには、作業中の同僚が死んだ17年前の11月15日の事故が忘れられない。
「路肩で標識の清掃をしているとき、わき見と見られるトレーラが突っ込んできて横転、爆発。社内では数年前からこの日を『安全を考える週間』に指定してもらいました」
高速で駆け抜ける車の脇に出向いて作業をしなければ仕事にはならない。自らの命も張った職業。もちろん、「他人」の死にも敏感にならざるを得ない。かといって、「人には触らないのが我々の仕事です」と、所長の丸山純一さん。どういうことか。
道路保全の角度から道路を常に使えるようにするのが同社の職域だ。具体的な作業は清掃、落下物回収、植栽の維持や冬季の融雪作業なども含まれる。一見すると他人の死とは無関係だ。しかし2年前、こんな出来事があった。
管内にあるサービスエリアの上下線をつなぐ橋からの投身自殺。何度も何度もひかれ、確認時に残ったのは足首とその他の肉片だけ。肉体、と確認できる部位は警察が回収したが、残りは約100メートルに渡って路上に擦り込まれたようになった。道路保全の観点から回収したのが、同社社員と協力業者だ。油脂向けの処理剤を散布し、スコップでゼリー状の物質をかき集める。慣れない作業と臭気の影響で気分が悪くなる作業員もいた。
このほか、トンネル内の側壁と窓から出していた首とが接触し、肉片が散乱したときの作業など数年に1度、「他人」の死と接する現場に出くわす。
事故を他人事と切り捨てられない三つ目の理由は、散乱物の回収業務の苦労だ。
トレーラが横転し、油が流出した数年前の事故時。油が側溝から川に入り、隣接する農地に混入してしまう恐れがあった。さっそく作業員が川に入り、オイルマットで油を吸着させた。石を一つひとつ、ひっくり返しながら吸着させていく。いかに仕事とはいえ、根気の要る作業。
交通事故について前出の三俣さんは、「当事者でなかったら他人事で普通は済むが、僕らは忘れることができない。事故現場の地道な作業を覚えてますから」。
総延長88キロメートルの保全を受け持つ。作業に当たるのは、社員14人と下請け業者の従業員で、50人弱の所帯。1日の交通量8万台の大動脈の流れを支える。
西宮北インター施設の端に、9年前に完成した建物がある。空調は完備されているが、ほとんど人の出入りはない。生存の見込みがないと事故現場で判断され、警察のワンボックス車で運び込まれた人体を仮置きする安置室だ。医師の診断後、数日は安置されるという。トラックなど遠方から来たドライバーは、遺族の遺体引き取りに数日かかることもある。安置室の奥の敷地にこの夏、ドライバーが死亡したトラックの事故車両も置かれていた。(西口訓生)
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