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ブログ・川﨑 依邦
経営再生物語(378)リーダーシップについて(9)―1
2022年5月30日
企業経営においてトップの役割の一つとして、社員の自発性を引き出すという仕事がある。経営コンサルタントとしてさまざまな企業に接して、つくづくその感が強い。
社員数100人の中堅運送会社を訪問したときのことである。娘婿が応対してくれたが、悩みとして次のように語る。
娘婿「うちの会社の悩みは社長ですね。うちの会社は、モラルが低い面があるんです。2人ほどタチの悪いドライバー社員がいるんですが、それがうちの古参社員で、社長は見て見ぬフリなんですよ」
私「見て見ぬフリとはどんなことですか?」
娘婿「新しい荷主のところに行かせても喧嘩して帰るし、新しい仕事を取ってきてやらせようとしても、〝どついたろうか〟と反発して、まあ喧嘩腰ですわ。3年前まで社員旅行へ行っていましたが、酒が入ると旅館のフスマを破るので、こりて旅行はやめました。社長にいくら注意してくれと頼んでも、もうひとつ反応がないのです」
私「でも社長さんは、一代で100人の運送会社をつくられたわけですから、立派な面があるんじゃないですか」
娘婿「運がよかった面も大きいですよ。お義母さんが経理担当ですが、お義母さんがえらいのです。社長はケチですよ」
私「社長の右腕というか、幹部はいないのですか。会議はどうなっていますか」
娘婿「そもそも、うちは社長以外役職者がいません。幹部どころか、社長以外はみな平社員です。会議はやったことありません。そもそも会社の利益がどうなっているか、社長とお義母さんしか知らんのです」
この運送会社は同族で、組織というより大家族というところであると察する。家族であるから、できの悪い社員がいても、辞めさせるわけでもなくズルズルいくのである。
仕事は骨身を惜しまず働くが、計画性とか、戦略面は成り行きまかせといったところである。現に私が訪問した際、社長はフォークリフトに乗っていて第一線で働いていた。
「経営の難しいゴチャゴチャした話は苦手や、おまえ聞いとけ」といったところである。娘婿曰く「どうやったら社長が勉強する気になりますか」
よくぞこれで100人、年商15億円の会社に成長したものであると感心させられる。一見すると、組織はない、会議もしない、社長は勉強ギライ、30歳の娘婿が将来を嘆いているというわけだ。
しかし、私の見方は違う。この会社の成功要因は、トップが頼りないところにある。トップが仕事ばかりして部下を構わないから、一人ひとりが自分で考えてやるしかない。いわば、自発性を発揮するしかない。ここに成功のポイントがある。
それを支えるのが得意先で、一社専属であるので、得意先の成長につれて会社も大きくなったのだ。 (つづく)
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筆者紹介
川﨑 依邦
経営コンサルタント
早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。
株式会社シーエムオー
http://www.cmo-co.com -
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