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射界
2018年2月26日号 射界
2018年3月23日
作家の川端康成は昭和43年(1968年)、ノーベル文学賞授賞式の記念講演で「美しい日本と私」をテーマに、日本文化について語っている。宗教学者や歌人の名句名歌を紹介して日本の美しさをたたえて、冒頭、道元禅師の「春は花夏ほととぎす秋は月 冬雪さえて涼しかりけり」を紹介した。
▲道元とは、曹洞宗の開祖で永平寺(福井県)を創建した高僧。雪深い山間に数多い伽藍を造り、世俗を超越した環境で禅の道を究めようと修行に打ち込んだ。記念講演で川端は道元の和歌を引用しながら、日本の美は「あるがまま」にあると述べ、世のしがらみを排して何事にも動じない、「あるがまま」の中に見つけだして大切にしてきたと解説している。
▲次いで川端は、良寛和尚の辞世の句「形見とて何か残さん春は花 山ほととぎす秋はもみじ葉」を取り上げ、ありきたりの事柄を、ありふれた言葉で、ためらいもなく積み重ね、日本の美の神髄を伝えた。さてここにきて、今回の北陸豪雪の影響を、雪国で暮らしたご両人はどう見たかを考えた。道元禅師の〝涼しかりけり〟とは、余りにも大きい距離がある。
▲1500台ものトラックや乗用車が国道8号に立ち往生したとき、自発的で善意で動いた人々に宿る日本の美しさがあった。荷主から預かったパンをトラック運転者が配り、住民の食料支援や公民館開放など、期せずして起きた善意に、「あるがまま」が一番という〝美しい日本〟の神髄を垣間見た気がする。道元禅師らもきっと納得してくれたはずだ。
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