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ブログ・小山 雅敬
第255回:不採算荷主との取引、継続か撤退かの判断基準とは
2023年8月4日
【質問】長年取引している荷主がなかなか運賃引き上げ要請に応じてもらえず、このまま取引を継続すべきか撤退するべきか判断に迷っています。取引継続と撤退の判断基準があれば教えてください。
最近は政府の施策の後押しもあって運賃交渉に応じる荷主が増えており、交渉の成果も各地で出始めています。そうなると、一方で運賃の引き上げに応じない荷主といつまでも取引を続けていて良いのだろうかと考える事業者も出てきます。
しかし、長年の取引先と取引関係を解消する判断は単に「運賃がコスト割れ」だけで安易に判断してはいけません。既存取引に比べて新規取引先獲得は3倍以上の手間と時間がかかります。また既存荷主の経営環境が改善すれば取引条件も改善される可能性があります。運送業の経営者は取引継続と撤退のボーダーラインをしっかり把握したうえで正しい判断をする必要があります。次の判断基準を押さえておきましょう。
①収益性の判断…車両別に売り上げから変動費と固定費を引いて「車両別利益」を管理している運送会社が多いと思いますが、取引継続or解消の判断は売り上げから変動費(歩合給と残業代は変動費に含める)を引いて算出する「限界利益」の数値を判断基準にする必要があります。限界利益がマイナスであれば即座に撤退の判断が必要ですが、限界利益がプラスであれば固定費の一部が回収されており、取引を継続するメリットがあります②取引先の経営環境・事業の将来性…荷主が国際情勢、為替等の外的要因で一時的に厳しい状況であれば、経営環境が変化した後に取引条件が改善する可能性が有ります。一方、長期的に減退している業種で将来的に成長が見込めない場合は今後も運賃の改善は期待薄でしょう③運賃以外の取引条件・作業環境・リスク等…待機時間の削減や荷役作業の合理化、作業環境改善など運賃以外の取引条件に対して、協力姿勢があれば良いですが、労働時間等の要望に聞く耳を持たないなどコンプライアンス上のリスクが高い場合は撤退すべきでしょう④他の取引先との関係…一社の取引撤退が他の取引先との関係にも影響を及ぼす場合(当該企業が取引先のリーダ格の中核企業など)は、取引全体への影響度合いを考慮する必要があります⑤新規取引先獲得の可能性…普段から新規先獲得活動を行っていれば、取引撤退後の経営悪化を防ぐことができます。一方、新規荷主の見込みがない場合は、慎重な判断が必要です。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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