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運送会社
日本倉庫協会・番会長に聞く「倉庫業界の現状と今後」
2007年11月30日
いま、日本の倉庫業界が大きく揺れている。米国の不動産開発大手プロロジスをはじめとする外資系企業の日本市場への攻勢は目覚ましく、特に物流倉庫の外資系による供給量のシェアは急増している。
先月、来日記者会見で同社のジェフリー・シュワルツ会長兼CEO(最高経営責任者)は、日本での物流不動者事業について「2010年には、現在所有し、運営する資産を、ほぼ2倍の1兆2000億円に拡大したい」と話した。
日本倉庫協会の番尚志会長(三菱倉庫社長)は「ここ1〜2年の供給量急増は、わが国倉庫業界が始まって以来の経験」と指摘。特に「物量の少ない地方での影響」を懸念しつつも「『座して待つ』のでなく『打って出る』倉庫業者を協会としては積極的に支援していく」という。倉庫業界の現状と今後の展望について番会長に聞いた。
――番会長が40年間身を置かれた倉庫業界を振り返って、今感じることは。
倉庫といえば「保管」というイメージだが、それがどんどん薄れてきた。明治時代に創業した当社(三菱倉庫)の場合でいえば、当初は味噌、醤油、また米や農作物など作り手が1年に1度か2度生産、収穫したものを預かることが主な仕事だった。年間を通じて消費者に確実に届けるためにも「保管」機能が重要だった。昨今はこの保管機能の必要性が低下した。毎日のように製品は生産されており、遅くても1〜2週間で消費者の手に渡るものが多い。このため倉庫も輸送モードの異なる場面での「積み替え」や「配送センター」としての機能が重視されるようになった。倉庫の起源から見ると随分と変わってきた。社会の中で物流はどんどん変わっているが、倉庫業の役割も絶えず変化を遂げながら今日に至っている。
――規制緩和の影響は。
2001年に大きく二つの規制緩和が行われた。一つは「許可制」から「登録制」への参入規制の緩和、もう一つは料金規制が「事前届出制」から「事後届出制」に変わったことだが、倉庫の構造要件などは、ほぼ従前通りで、実務面からすればそんなに大きな変化ではない。実態そのものはさほど大きく変わってはいないのに、世の中の「規制緩和の流れ」で「倉庫も規制緩和された」とのイメージが巨大化し、それが一気に、物流施設を作る外資系の方々をある意味で誘導したと言える。
――プロロジスをはじめ外資系の物流不動産企業が注目されているが。
ニュースにもなったが、プロロジスさんが国内で運営する物流施設の面積は338万平方mになったという。創業120年の当社は現在、80数万平方mなのでほぼ4倍の規模になる。倉庫を建ててわずか5年ほどの会社がわれわれの4倍以上の規模の施設を運営されている。そのほかにも同様の外資系会社が出てきた。当社の倉庫供給面積は物流業界全体の中では2%ぐらいのシェアだが、単純に考えて8%のシェアを占める会社が現れたということになる。他の外資系も含めれば2けたを占めるだろう。5年程度の間にこのように供給量が急増したことは、日本の倉庫業界にとって初めてではないか。
――外資系が進出してきた当初、どのように感じていたか。
倉庫業は非常に収益性の低い業種だ。そんなところに最も収益性を重視する外資系が参入するはずがない、入ってきてもそんなに利益が出るはずはないとの認識が業界全体にあったことは事実。出てこられても、こんな規模とスピードで出てくるとは思わなかっただろう。私は日倉協の会長就任時に「この(外資系の)勢いはすごく速い。かなりわれわれに影響が出てきますよ」と話した覚えがある。本当にここ1〜2年の間に、ものすごいスピードで出てきたというのが実感だ。
――プロロジスのシュワルツ会長は日本での不動産事業について2010年に現在の2倍の規模にすると話しているが。
国内で年間1000億円投資というニュースがあった。ものすごい投資金額だ。当社でも年間百億円投資すれば多いほうだ。単純に考えると当社より大きい規模の倉庫が、毎年一つずつできるような印象だ。ということは、2%以上のシェアを持つ会社が毎年出てくることになる。国内貨物量が減少する中で、大変な影響が出てくるだろう。
――倉庫業者にとって外資系不動産会社はライバルになるが。
先方は倉庫業ではなく不動産業だが、施設の供給が増えることでライバルというよりも、我々にとって非常に大きな影響があるのは確実だ。倉庫業者がアセットを持たずに外資系不動産会社の物流施設を利用するケースも当然出てくるだろうが、供給量が速いピッチで拡大している。しかも基本的に最新鋭施設が中心となる。倉庫業は投資してから「20年ぐらい経って回収する」みたいな部分があるので既存業者は必ずしも新しい施設を運営してはいない。すると、今の時流に合った新倉庫が大量に供給されることになるわけなので、かなり施設面での影響が懸念される。低収益性のまま、そうした施設を借りながら採算が合うかどうかの問題もある。
■競争ますます激しく 異業種から参入増加
――「転貸」はかつて倉庫業ではあまり考えなかったと聞くが。
昔の倉庫業者は倉庫を「保有」してなければならず「借庫」では許可がおりなかった。それが「一部所有があれば借庫でもよい」を経て、「全部借庫でもよい」となった。だから、元々倉庫業者には「倉庫を借りて運営する」という概念はあまりなかったが、法改正で「倉庫がなくても倉庫業ができる」と異業種からかなり参入が続いた。とくにメーカーの物流子会社、トラック事業者などが倉庫を借りながら運営するケースが増えてきた。その意味で競争は激しくなっている。
――従来からの倉庫業者は自社施設をどう活用するかがポイントになる。
もちろんだ。都会、地方の違いもあるが、活用できる事業者は「所有」してやるのか、あるいは持っている倉庫は別の用途に使って、逆に倉庫業は「借りて」やるというような選択肢もある。ただ活用できる場所など条件がある。都会ならいざ知らず、地方の場合、転用は難しいかも知れない。
――そうした中で外資系が次々に最新施設をオープンしている。
外資系の物流施設は当初、東京やその近郊だったが、今、地方に向かっているだけに地方での施設過剰の問題が懸念される。地方は貨物量も少ない地域も多く、かなり影響が出てくるだろう。最近は鳥栖とか仙台などの話も出ている。
――地方の倉庫業者の倒産、廃業の増加なども考えられる?
日倉協としても強調しているが、従来と全く同じことをやりながら倉庫業を維持できるかというと、これはなかなか困難だ。倉庫業も社会の変化に応じて変わってきたわけだから、新たな事業環境に立ち向かう事業者については協会としてもできるだけ応援する。3PL、アウトソーシングなど声高に叫ばれる中で、現状のままだと倉庫施設の供給増加や競争者の出現はマイナス要因だが、半面、荷主がサプライチェーンを構築し、コア事業に投資を集中させようと動いている現実がある。これは「ロジスティクスはアウトソーシングしよう」との新しい「需要」が出現していると考えられる。そうしたニーズにきちんと取り組んでいくことが肝心だ。
■地味だが有益な事業 若者にアピール
――既存の倉庫業からの脱皮?
倉庫業だけでなく、3PLの部分をわれわれも担っていく。荷主企業の「倉庫の部分」だけでなく、ロジスティクスの様々な分野でパートナーとして担うべき役割がある。その役割について「できるだけ会員事業者のお手伝いをしたい」というのが日倉協の立場だ。このため協会では会員事業者に対し階層別、業務別の教育研修活動に力を入れ、人材の育成にも努めているところだ。
――少子高齢化社会が進む中、業界全体の労働力不足問題は。
日本の労働力は減少しているわけで、業界でも若年層は不足している。しかし、中高年労働力は逆に増えてくることに注目し、彼らに働いてもらいながら色々な面でトレーニング、研修しながらやっていくことになるだろう。若い人たちの不足については結局、この業界が「魅力ある職場」にならなければいけない。その意味で当業界のイメージ作りをきちんとしていこうと思っている。
――倉庫業の「魅力」とは。
いろんな捉え方があるだろうが、一つはロジスティクス全体を含めて考えると非常に社会に必要な仕事ということ。モノを動かさない限り「生活」は成り立たない。コンピュータの商店街がいくらできても、結局お客さんに届けねばならない。社会的地位は高くはないかも知れないが、社会的役割は大きい。また経済がグローバル化した今日、生産から消費の過程にある企業の「外部不経済」を共同保管、共同配送などの形で節減できるし、「雇用が確保できる」など社会にとって地味ではあるが非常に有益な事業だと感じている。多くの産業の下支えであることは確かで、派手なところはない。だが社会的貢献度は大きく、しかも改善する可能性がかなりある事業だ。それを若い人たちにアピールしたい。
――環境対策について。
環境問題は現在では、CSR(企業の社会的責任)の一環でもあり、われわれも確実な対応が求められている。協会ではCO2削減に向け「地球温暖化防止ボランタリープラン」の策定、会員事業者のグリーン経営認証取得やグリーン物流パートナーシップ会議の補助事業、NEDO(独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「エネルギー使用合理化事業者支援事業」への応募を促進するなど環境問題への意識を高めるよう努めている。
――最近の貨物のトレンドは。
全体で貨物量は5年前に比べ約10%減少した。倉庫を使わずに消費者へダイレクトに向かうケースが増えている。米、農産物などが減っており、電気製品なども倉庫を通らずに直接量販店に納入されている。逆に増えているのは従来、顧客先で直接管理していた品物、例えば「医薬品」「医療器具」や「自動車部品」などで、今までそういうものは営業倉庫に入ることはなく、荷主側が自社の工場、施設などで保管・管理していた。それがアウトソーシングされ、倉庫に入るようになった。貨物量は減少しているが、保管だけでなく流通加工なども行われ、また医薬品など米、農産物などに比べると重量が全然違う。だから保管のトン数だけでは「仕事」の量は判断できない。
――料金面で競争が激しいというが。
認可制だったトラック事業などに比べ、届出制の下、弾力的でフレキシブルな料金体系だったこともあり、元々料金競争はあった。それが続いているのも事実。今の規制緩和の中で料金競争は避けて通れない。ただわれわれとしては相当なコストを投入して事業を行っているわけで、コストとサービス内容に見合う料金はやはりいただきたい。それは各事業者が個々に決定し、実行していくことになるが「適正な料金」をいただきたいと願っている。協会としてはどうこうできないが「こういうものが相応しい」という提案が可能なら、提案していきたい。私個人としては今の業界の実態から現行の料金体系はリーズナブルだと考えている。しかし「絶対」というものはないので、より良いものがあれば検討したい。
――今後の倉庫業の展望を。
現在、全国の倉庫業者の約七割が協会に加入しているが、もっと大勢に加入してほしい。そして一緒に業界イメージアップを含めて、様々な課題に取り組んでいきたい。また一般の人たちにもっと倉庫業に対する理解を深めてもらいたい。営業倉庫は地域で築き上げた信用をベースに色々なお客様の貨物の「共同保管」という考え方で発祥した。だから、これからも物流のパートナーとして荷主企業とともに各種の改善事案に取り組んでいければと思う。倉庫業は決して「座して待つ商売」ではなく、「打って出る」意識が必要だ。物流業界の変化は加速し、地図はどんどん塗り替えられている。昔のように、多くが淘汰されてから「そろそろ」では間に合わない。「打って出る」業者を日倉協としては積極的に支援していくつもりだ。
【番尚志氏プロフィール】
神戸大学卒後、69年、三菱倉庫入社。大阪支店長、経理部長を経て01年6月常務取締役、03年6月社長に就任。06年6月、日本倉庫協会会長に就任。金沢市出身。 -
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