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物流ニュース
どうしてなくならない フォークリフトの労働災害
2024年11月26日New!!
日本産業車両協会(JIVA、御子神隆会長、東京都港区)が発表した「フォークリフトに起因する労働災害の発生状況」によると、2023年は休業4日以上の死傷事故発生件数が1989件(うち陸上貨物148件)で、死亡・死傷災害ともに前年を下回った。業種別の死亡災害発生件数を、5年ごとの平均値で比較すると、運輸交通業はいったん増加後、減少しており、貨物取扱業はおおむね横ばい傾向となっている。また、事業所規模別の死亡災害の傾向(10年分)については、50人未満の事業所での死亡災害の発生割合が高まっている。
2024年もフォークリフトによる労働災害が発生しており、4月には運送会社でフォークリフトを運転していた作業員が運転席から投げ出され、横転したフォークリフトの下敷きになって死亡している。
フォークリフトで発生しやすい事故は、「墜落・転落事故」「挟まれ・巻き込まれ事故」「衝突事故」「転倒事故」の4つで、特に転倒や転落、挟まれ事故の報告が多い。
「余裕のない時に起こる」秋元運輸倉庫
秋元運輸倉庫(秋元伸介社長、同)安全管理部の酒井利之部長は「フォークリフトは単純な構造なので、知識や経験が少なくても簡単に乗ることができるが、慣れてくると非常に怖い乗り物だとわかる」と話す。
「当社では、若手に一連の教育を行い、実技が慣れてくればフォークリフトに乗せるようにしているが、経験が少ないからか3年目くらいまではどうしても事故が起きてしまう。特にバック時に起きる事故が多く、前方にだけ意識がいって、後ろを確認しないのが原因だと考える」と同部長。「自分が現場を預かった最初の頃は、人数も多く、フォークリフトの台数も多かった。今よりも忙しかったので、フォークリフトによる事故も多かった」とし、「原因で最も多かったのが確認不足だったことから、確認の徹底に力を入れた」としている。
どんなに教育や指導を徹底しても、忙しい時や余裕のない時などに事故は起きてしまう。教育だけでは、ヒューマンエラーをなくすことは難しい。人に依存しない仕組みを構築する必要があるため、今年の国際物流総合展でも、フォークリフトの接触事故防止機器やドライブレコーダー、安全システムなどに注目が集まった。
「リスク低減の困難さ理解して」労働安全衛生総合研究所 大西氏
事故が減らない原因について、労働安全衛生総合研究所(東京都清瀬市)の大西明宏氏は「前提として、フォークリフト作業は事故リスクが高く、事故防止に向けた根本的なリスク低減が非常に困難なことを理解しなければならない」と説明。
同氏が指摘するフォークリフトの抱えるジレンマは、「物流現場に不可欠なモビリティでありながらも、現場が求める生産性を実現しようとすれば、リフト操作と移動を同時にする『ながら運転』をオペレーターに強要してしまう」ということ。
同氏は、フォークリフト技能講習後、「作業適応への不安」を訴えるオペレーターに出会ったこともあるらしく「これでは事故減少はおろか、人材の確保にも課題が生じる」と警鐘を鳴らしている。
現状を「リスクが高いモビリティを、それぞれの倉庫が自社の荷主商品に合わせた独自のルールで運用していった結果、個人の技能への依存度が高く、体系的な育成と採用が困難となり、事故リスクの高低さえ客観的に分析できない状況になった可能性がある」と話す。
こうした背景から同氏は「業界に精通した第三者機関が、リフトの稼働環境を評価する制度を検討しては」と話す。
運転競技大会のように個人に着目するのではなく、企業やメーカー関係者などが「事故リスクの低い環境なのか」を評価する方式だ。同氏は「フォークリフトの稼働環境そのものに着目した好例を生むこともできる。手本を生み、また企業が自社を客観的に見つめる指標にもなるのでは」としている。
これまでは個人の努力と、カメラやセンサーを後付けすることで対策としてきたが、効果も頭打ちになっているという。事故を未然に防ぎ、業界の未来を担う人材が過剰に使い潰されないためにも、第三者視点を採り入れた事故原因の追究と環境構築が求められる。
◎関連リンク→ 独立行政法人労働者健康安全機構労働安全衛生総合研究所
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