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射界
2019年6月17日号 射界
2019年7月1日
松本市内から眺めて西方向に穂高連峰が位置する。ここから眺めている限りでは黒々とした峰の連なりしか目に入らないが、登ろうとすれば容易ではない。ある程度の経験と技術、装備が必要で、頂上を目指して登れば登攀の難しさに悩まされる。人生にも似た試練の数々を味わうことになる。
▲人生とは、自分の欲求を満たすための軌跡でもある。畏まって意味や目的について尤もらしく語り並べるが、それは自らの欲求を美しく彩っているだけで、いかめしさを装ってカッコよく見せているところが見え隠れする。近代日本の礎を築いた福沢諭吉は「上手な役者が乞食を演じ、大根役者が殿様にもなる」のを例にし、「人生は芝居である」と評している。
▲人が、この世に生を享けた以上、肩の荷の軽重は違っても生き続けなければならない。いたずらに急ぐことなく、不自由や不足が当たり前の世界だと思い、徳川家康が教える「堪忍は無事長久の基。怒は敵と思へ。勝つ事ばかりを知って負くる事を知らざれば害その身に至る。己を責めて人を責むるな。及ばざるは過ぎたるより優れり」を思い出して反芻したい。
▲穂高連峰を遠くから仰ぎ見る。多くの人はそれで満足する。中高年者の〝山歩き〟熱は続き、身の丈を知らない人が自信過剰で暴挙の余り多くの迷惑を及ぼしている。中国の詩人魯迅は「人生で最も苦しいことは夢から醒めて行くべき道がないこと」と説く。自らの人生を損なうような山登りは避けるべし。平凡だが心満ち足りて納得する人生でありたいと願う。
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