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健康不安言い出せぬドライバー 企業の管理業務が困難に
2010年11月25日
「あんな姿を見てしまえば、もう恐ろしくて切り出せない」と、岡山県の物流会社に勤務する長距離の大型トラック運転者は話す。「給料が減ってもいいから地場輸送に回して欲しい」と、会社に直訴した同世代の年配ドライバーがクビになったのだ。以前から「大型車の運転が怖くなった」と話していたが、年齢的に再就職が難しい現実を思って我慢していたらしい。トラック業界では近年、ドライバーの健康管理を企業側に厳しく求めるルール作りが進んでいるが、仕事を失いたくないドライバーの思いが健康状態や既往症をひた隠しにして、企業の管理業務を困難にするケースもある。
かねてドライバーの職業病としてトップに上げられてきた腰痛にしても、現場では「本当に痛くても、あまり深刻ぶると仕事を干される」(神戸ナンバーの4トンドライバー)というムードがあるという。運転以外の業務に回すことが可能な大手事業者は別として、一般的な中小・零細のトラック事業者に勤務するドライバーの場合は「ハンドルを握れない」イコール、「職場を去る」という現実に直結するのだという。このところ頻繁に耳にするようになったSAS(睡眠時無呼吸症候群)も、ドライバーの高齢化が顕著なトラック業界としては深刻な問題の一つだ。
全ト協も平成17年度の途中から、積極的な受診を促すために受診費用の一部を助成する制度を立ち上げており、それに金額を上乗せする形で内容を充実化させる地方ト協は32か所にのぼっている。
全ト協のまとめでは、期中のスタートとなった初年度(17年7―翌年3月)の助成申し込みは1万2562人(430社)、18年度1万1836人(554社)、19年度4万3692人(927社)、20年度2万9410人(809社)、21年度2万6330人(1264社)という推移。今期は11月11日現在で698社から、延べ1万4170人分が申し込まれている。
ただ、全国で100万人を超えるトラック・ドライバーがいることを考えると、いまだに受診率は10%ちょっとという計算だ。
しかも、「(この数字は)申し込みがあった件数を集計したものであり、実際に助成金が支給された件数ではない」(労働部)という。「なんらかの理由」で受診をやめるドライバーもあるようで、そうしたケースも申込件数にカウントされているということなら、実際の受診率はさらに下がる。
30台のトラックで関東から九州まで走るという広島県の物流会社では「簡易アンケート方式の自己診断は実施したが、問題となるドライバーは見当たらなかったため、その先は手を付けていない」と話しているが、こうした反応の中小企業が目立つ。
その一方では、「健康面に不安があるという印象を会社に持たれると仕事が減ってしまいそうで、問診表を適当に記入するドライバーも珍しくないと思う」と、前出の神戸ナンバーのドライバーは打ち明ける。
こうした現状が広がっているとすればトラック運送における安全管理の現場は深刻だが、そこに企業側のなおざりな対応が重なれば状況は危機的だ。
大手機械メーカーの物流を手掛ける兵庫県の運送社長は「乗務員の健康管理は、場合によっては重大な行政処分にもつながる全事業者に共通したテーマ。そういうものにこそ業界団体は全額補助のサポート体制を整えるべきだ」と訴えている。(長尾和仁)
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