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ブログ・馬場 栄
第148回:事故弁済金制度
2019年4月26日
今回は、「事故弁済金制度」についてお話をしていきます。運送会社の場合、事故を起こした際の車両修理費用などの弁済金制度を設けている会社も一定数あります。ルールも事故損害額の一定を弁済させたり、無事故手当の設定がある会社は該当時には支払わないなど様々です。確かに一定のルールに従い弁済金制度を運用することは可能でありますが、トラブルが多いのも事実です。事故弁済を行うにはいくつかのルールがあり、会社はルールを守った上で「事故弁済金制度」を実施する必要があります。今回は「弁済金額」「請求時の手続き」「支払い方法」の3点で特に注意すべき事項についてお伝えしていきます。
まず、「弁済金額」についてですが、仮に損害額を全額請求しているという会社があれば皆さんは、どう感じるでしょうか? さすがに全額請求は行いすぎと感じるでしょうか。では、いくらであれば妥当なのか、過去の判例からみますと、会社からドライバーへの請求の限度は実損害額のおおむね3割が限度とされています。実際の金額設定は社員の過失などを加味して最大3割までとすることが望ましいと考えられます。また、車両保険に加入していて事故について保険金請求を行った場合、社員からも弁済を請求してしまうと二重で補償を受けたこととなるので、保険金を受け取った部分については社員から弁済を行うことはできません。
次に、「請求時の手続き」についてです。まずは、会社で弁済のルールを制定した上で、本人との書面による具体的な内容の書かれた「弁済契約書」が必要となります。この契約書の中で、事故の損害額や弁済額、支払い方法などについて決定し、書類を取り交わします。
最後に「支払い方法」についてです。給与から一方的に相殺することは禁止されております。給与から控除する場合は協定書を制定したり、本人との個別の同意が必要になります。給与控除は、条件が意外と厳しく後々揉めることもありますので、手間は掛かりますが、給与とは別に毎月振り込んでもらうなど給与とは分離した方法で支払ってもらうことが望ましいです。また、月あたりの弁済金額は月給与の1割以内が望ましいとされています。
「無事故手当」を支給している会社は、弁済金に代えて「無事故手当」を不支給にするという会社もあります。実施している会社に話を聞くと、弁済金額に達するまで数か月間不支給にしているという話もよく聞きます。ただし、この方法には問題があります。無事故手当を不支給にできるのは、事故のあった該当月の1か月分のみに限られており、複数月に渡って不支給とすることはできません。そのため「無事故手当」は事故の抑止、無事故に対する奨励としては効果がありますが、事故弁済としての活用には馴染みません。
事故を発生した場合の弁済金制度に不満を持ち、会社と揉めて退職、その後、未払い残業代の請求など別の金銭的な請求を起こすケースも発生しています。未然にトラブルを防ぐためにも、会社はあらかじめ事故弁済金の制度を明確にし、社員への周知も十分に行う必要があります。その上で実際、弁済金制度を適用する場合には丁寧な説明、個別の契約書による同意が必須となります。
(保険サービスシステム株式会社・社会保険労務士・馬場栄)
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筆者紹介
馬場 栄
保険サービスシステム株式会社 社会保険労務士
年間約300社の経営者の相談・アドバイスを行っている。中小企業の就業規則や残業代など、幅広い労務管理のアドバイスに高い評価を得ている。 -
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