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ブログ・小山 雅敬
第263回:元請運送会社の責務とは
2023年12月8日
【質問】弊社は中堅規模の実運送会社ですが、全体の2割程度の貨物を傭車(下請運送会社)に運送委託しています。元請運送会社の立場で留意すべき点があれば教えてください。
現在、運送業界には多重下請け構造が全国的に存在し、実運送会社として荷主の貨物を運ぶ一方、元請運送会社として下請運送会社に運送業務を委託するケースが一般的です。
さらに運送会社間の取引では、運送委託契約書などの契約内容を明記した書面を取り交わすケースは稀であり、従来からの互いの信頼関係に基づいて委託する慣習が見られます。
先般、発出された2024年問題に向けた「物流革新に向けた政策パッケージ」や「ガイドライン」に明記されているとおり、ドライバーの待機・荷役時間の管理や業務の見直しなどの責任が発着荷主の他、元請運送会社にも強く求められるようになりました。
トラックGメンの監視先も発着荷主および元請運送会社となっています。元請運送会社は従来の管理に加えて、今後は次の事項に特に留意する必要があります。
①労基法や改善基準告示の改正内容に即して、順守が困難な仕事を下請運送会社に委託しない
②下請運送会社から労働時間や作業などに関する改善要望を受けた場合は、自社の問題と受け止めて迅速に発着荷主などと協議し、改善する
③運賃や料金に関する要望がある場合は、自社の問題と受け止めて迅速に荷主と運賃交渉の協議を進める
④日頃から下請運送会社とのコミュニケーションを密にし、作業実態の把握と改善に努める
⑤多重下請構造の是正に努める
なお、2024年対策で運賃交渉の必要性が叫ばれる中、コンサルティングの現場で、「うちは運送会社から受託しているので、同じ運送会社に対して運賃引き上げ交渉は難しい」との声を時々聞くことがありますが、一方、関与先である中堅運送会社の経営者は「傭車先から運賃を上げてくれと言われたほうが荷主に対して交渉しやすい」と話しています。
これからは真荷主だけでなく、元請の同業者に対しても主張すべきことは主張する姿勢がさらに普及してくれば、発着荷主も含めて運送業界全体の改善に近づくものと思います。
元請運送会社は荷主に対して、貨物の安全確実な配送に関する責任を負う一方、下請運送会社に対してドライバーの安全や健全な収益確保に向けた責任を負っており、運送事業者と荷主の両面の責務を保有していることになります。
(コヤマ経営代表 小山雅敬/中小企業診断士・日本物流学会会員)
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筆者紹介
小山 雅敬
コヤマ経営
昭和53年大阪大学経済学部卒業
都市銀行入行。事業調査部、中小企業事業団派遣、シンクタンク業務に従事。
平成4年三井住友海上入社。中堅中小企業を中心に経営アドバイス、セミナー等を多数実施。
中小企業診断士、証券アナリスト、日本物流学会正会員 等資格保有。 -
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