福島原発事故の影響と今夏、実施される可能性が高い大規模な計画停電への懸念から、主力商品の物流倉庫を首都圏から関西圏に移す企業が出始めた。特に、きめ細かな温度管理が必要な食料品や医薬品関係で顕著な動きが見られるという。今も首都圏では計画停電の影響が多くの産業で随所に現れており、さらに広範囲、長期間に及ぶ事態になれば企業は大きなダメージを受ける。さらに、「放射能汚染」という風評被害。これらを避けるため「西へ一時退避しよう」というのだ。こうした動きは倉庫業界だけでなく、商品を輸配送する物流業界全体に影響することは必至で、「原発問題の早期解決と大規模停電回避」を切望する事業者の声が日を追うごとに強まっている。

　計画停電は工場をはじめ多くの施設で影響を受けている。病院での手術など、わずか数時間の停電でも致命的なダメージを受けるケースもある。半導体製造工場なども「２、３時間停電すれば空気清浄システムその他の絡みで、１日作業が中断される」という。

　コールドチェーン（低温連鎖体系）を確保しなければならないチルド食品、医薬品などを扱う倉庫も例外ではない。わずかな温度のブレが商品を台なしにしてしまうリスクから大手、中堅を問わず、物流倉庫を首都圏から関西方面に移す企業が出始めたという。

　日本梱包運輸倉庫の担当者も「大震災の影響もあるようだが、主力倉庫を関西方面に変える企業は増えている」と話す。第一貨物では「放射能汚染を恐れて当社の茨城センターから急きょ、神奈川センターにそっくり荷物を移したケース」もあるという。

　また、「首都圏は大停電になる可能性があるので危ない」とあおる３ＰＬ事業者もいる中、あるアセット型の３ＰＬ事業者は最近、流通・物流倉庫の枢軸機能を関西圏に移設した。

　出荷停止の農産物、放射能が検出された魚などを運んでいたトラック業者には仕事がない。東日本大震災の２次災害、３次災害ともいうべき「放射能汚染」という風評被害と、夏の大規模停電が首都圏の物流業者に黒い触手を伸ばし始めた。

　６日、「計画停電は４月中に原則廃止する方針で、電力需給対策案を経産省がまとめた」と一部で報道されたが、同案に「現実的でない」と反対している資源エネルギー庁内部には「４月は暖かくなるので計画停電をしなくて済むのは当然」との意見がある。案に示された「電気の使用制限」の根拠となる電気事業法27条の発動に反対する経産省経済産業政策課の伊藤禎則政策企画官は、「まだ決まってないことが、どうして報道されたのか分からない。27条の発動で大規模停電の回避を担保することにはならない」と指摘する。

　「去年のような猛暑になれば、７―８月のピーク時には仮に火力発電などの機能が回復しても電力供給は追いつかない。このままでは大規模な計画停電は避けられない」というのが資源エネ庁の見方だ。政府の電力需給緊急対策本部（枝野幸男本部長）は４月末までに需給対策を最終決定するが、各省庁に「どのくらい節電できるか管轄する業界団体から提案を求める」よう指示している。国交省、物流連などは陸海空の物流団体に意見を求めているところで、伊藤氏は「27条違反はわずか罰金１００万円。大企業なら払っても工場を操業する可能性がある。やはり民間からの積み上げでなければ実効性は乏しい」と強調する。

　首都圏の計画停電では、信号機が作動しない交差点の事故が多発している。関運局によれば営業トラックでは、「八王子ナンバーの４トン車」が「明らかに計画停電の影響による事故」の管内第１号という。

　３月17日の午後５時ごろ、さいたま市内の停電中の信号機交差点で、左から来た乗用車の停止を確認。前進したトラックに乗用車の陰から自転車が突っ込み、自転車の男性が重傷を負った。計画停電に起因する事故は警察も統計を取っておらず詳細は不明だが、「交差点での事故は数え切れないほど起きている」（東運支局）との指摘もある。

　引越業者も計画停電のエリア・時間帯などが直前に発表されるため、「予定が組めない」と苦労している。また、佐川急便は発電機を用意し、停電エリアの営業店にそれぞれ配備して対応。集荷時間も短縮して午後３時には締め切っている。ヤマト運輸では宅急便の自動仕分けを行うベース店について、「計画停電の対象となった場合は即座に他のベース店に移して作業。遠方のものほど隣接ベース店に重点移送する」など工夫している。両社とも広範囲で長時間に及ぶ大規模停電については、「今のところ情報が少なすぎて、具体的な対応策は決まっていない」。（土居忠幸）