今から３年前に商売を始めた社長がいます。社長の会社は個人商店で、従業員は社長の妻とパート１人という小さな会社です。開業当初は売り上げも上がらず、経営が苦しかったとのことでした。

　世間は大不景気で、いつ倒産してもおかしくない情勢に反して、社長の会社は今年、結構な利益が出ています。社長がいい仕事をしているのが好感されているためです。

　社長は独立してよかったと喜んではいますが、このままいけば税金の申告で大変なことになるのではないか、と最近心配してきたそうです。利益が上がって税金が増えれば、その分国民健康保険料が高くなり、来年は税金を払うために働かなければならなくなる、というのです。

　そこで色々考えた社長は、従業員を食事に連れて行ったり、会社でテレビを買ってみたりと、経費を使って一生懸命領収書を集めました。しかし利益はなかなか減りません。困った社長は、会社が儲かったら買いたいと思っていた、何百万円もする高価な腕時計は会社の経費にならないかと考えたのです。

　社長は同じ商売をしている先輩に相談したところ、「大馬鹿者！」と一喝されました。その先輩も先だって税務署の調査を受け、膨大な追徴金を払ったそうです。しかも親戚から借金をして払ったとのことで、「お前も税務調査を経験したら、そんな愚かな考えはしなくなる」と説教されました。

　社長は先輩に怒られたことが大変効いたのか、腕時計を経費にするのはやめにしました。