数回に渡って社員の採用方法についてお話ししてきましたが、経営者の皆さんは実際に採用する時、採用条件を口約束で済ませているということはないでしょうか。採用条件を明確に決めたのであれば、口約束ではなく、きちんと書面に残しておきましょう。書面がなければ、後になって「聞いた、聞いていない」のトラブルになる可能性が出てくるからです。

　また、労働条件を書面に残しても、「労働条件通知書」というかたちで一方的に通知する会社もあります。法律上は特に問題ないのですが、このやり方はお勧めできません。会社が「労働条件を通知しましたよ」と一方的に通知するだけの労働条件通知書では、社員がその内容に同意したという明確な証拠が残らないからです。極端な話ですが、書面をポイと捨てられて「労働条件通知書は渡されていません」と主張されることもあるのです。
　私としては、お互いが署名・捺印し、各１部ずつを持ち合わせる「雇用契約書」として書面を残しておくことをお勧めします。お互いが署名した「雇用契約書」を１部ずつ持つことにより、雇用条件を聞いていないというトラブルを防ぐことができるのです。
　また、「うちは雇用契約書を取り交わしているよ」という会社でも、よくよく聞いてみると、簡単な労働条件を示しただけの文書１枚という会社もあります。しかし、せっかく社員と契約を取り交わす機会なのですから、定められた労働条件に加えて、これは必ず目を通しておいて欲しいという重要な事項を盛り込んでおきます。
　具体的には、順守事項、服務規律などを就業規則から抜粋して記載しておくのです。社員に守ってもらいたい事項を採用時に書面で渡しておき、周知させておくことが重要なのです。
（保険サービスシステム株式会社・社会保険労務士・馬場栄）