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    経営再生物語(328)人材育成について(22)Aさんの事例(2)

    2021年3月29日

     
     
     

     Aさんの生きざまが、企業の中の人材育成という点について示唆するところは何か。ひとつは生きるということに対する前向きな姿勢をもって、目標を持つことだ。「うちの社員はアカン」と決めつけてあきらめてはならない。Aさんは失ったものを数えるより、残ったものを大切にしたいと考えている。能力のたりなさをあげつらうより、美点をみつめてその美点を生かしていくことだ。「うちの社員には美点などない。ダメだ」と本当に心から思っているのであれば人材育成はムリだ。人にはそれぞれいいところがある。そのいいところを発揮させていく。

     

     B子さんは入社3年目の女子社員である。性格が暗く電話の応対も悪い。「こんな根暗な社員はやめてもらうしかない」と上司は思っていた。B子さんはまじめで黙々と仕事をする美点があった。この美点に着目して人事ローテーションし、コツコツと取り組む仕事に配転した。B子さんにぴったりの仕事で、コツコツの働きは周りから評価されている。美点に着目して前向きな姿勢でいく。そして目標をもつことだ。

     Aさんの主治医の言にまつまでもなく、Aさんを支えているものは、目標である。この目標の確立は人材育成のエネルギー源である。人材育成に成果をあげて伸びつづけている会社がある。この会社は全社員が、「3KM私の生涯幸福設計」といって目標を作る。3Kとは個人、家庭、会社のことである。1年後、3年後、10年後、定年後に分けて、ありたい自分の姿10項目、その為の行動計画を記入する。全部で240項目となる。そして優先順位をつけて、できるだけ具体的、行動計画は月日、数字を記入するルールである。目標を達成する方法は、目標を設定すること、紙に書き毎日声を出して読むこと。行動を継続すること、達成したときのことを言葉と絵でイメージ化すること、信じて疑わないことである。

     次にAさんの生きざまから示唆をうけるのは、ハートの問題である。ハート、すなわち心。Aさんは生きる支えの根本として、宗教を持っている。人材育成はハートがいる。企業経営にとってハートとは何であろうか。それは企業を経営し社会に存在し貢献していくうえでの理念である。理念なくして単に金もうけのみとか、人の使いすてといった企業で、はたして人は成長するか。ハートは理念であり、そこで働く一人ひとりのおもいやり、やさしさである。Aさんは発病20年目の心境として、暖かくはげましてくれる人への感謝のことばを述べている。このハートが大切なのだ。ハートを軽くみて効率とか技術とかに偏重しては、人材は育たない。したがってハートの豊かさ、深さを職場風土に浸透させていくことが大切なのだ。

     3つ目としては、ピンチをチャンスととらえていくことだ。Aさん曰く〝難病も我にたまいし恵みなり、災い転じて福とならしむ〟。人材が育っていないのは企業の永続、成長にとってはピンチである。しかしこのピンチは恵みであり、前向きにチャレンジしていくことで、福に転じることができる。

           (つづく)

     
     
     
     
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  • 筆者紹介

    川﨑 依邦

    経営コンサルタント
    早稲田大学卒業後、民間会社にて人事・経理部門を担当し、昭和58年からコンサルタント業界に入る。
    63年に独立開業し、現在では『物流経営研究会』を組織。
    中小企業診断士、社会保険労務士、日本物流学会正会員などの資格保有。
    グループ会社に、輸送業務・人材サービス業務・物流コンサルティング業務事業を中心に事業展開する、プレジャーがある。

    株式会社シーエムオー
    http://www.cmo-co.com

     
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